田邉草民、スペイン初得点までの長き苦闘 サバデル移籍で感じた自身の甘さと成長

工藤拓

結果を出すまでの厳しい道

初得点までに要した時間は半年。田邉草民(写真)はスペインでもがき続けながらも徐々に結果を出しはじめている 【写真:アフロ】

 1月12日に行われたスペイン2部リーグ第21節。アウエーでレクレアティボに挑んだ一戦にて、CEサバデルの田邉草民がスペインでの公式戦初ゴールを決めた。

 待望の瞬間が訪れたのは1−1で迎えた後半39分。右サイドから上げられたクロスがDFに当たって微妙にコースを変え、左サイドからゴール前中央へ走り込んだ背番号21の頭にぴたりと合う。無心で放ったヘディングシュートはゴール左隅へと吸い込まれ、これがサバデルの決勝点となった。

「うれしかったです。逆サイドからああやっていい感じで入れていたので、良かったです。いい感じでボールが来たので。(シュートを打つときは)無心でした。考えなかったですね、何も」

 スペイン移籍からちょうど半年。ようやく1つ結果を出すまでの道のりは、長く厳しいものだった。サバデルの練習に参加したのは昨年6月。同月末には1年間の期限付き移籍が決まり、10−11シーズンに所属した指宿洋史(バレンシアCF・メスタージャ)に次ぐクラブ史上2人目、2012年7月に日本人オーナー坂本圭介が就任して以降は初めてトップチームに加わった日本人選手となった。

「2部でも自分が思っていたよりレベルが高く、スピード感が日本よりある。慣れるのは大変だと思うけど、がんばりたい」

 入団会見ではそう話していたものの、初の対外試合となった日本遠征での古巣FC東京戦ではさっそく移籍後初ゴールを記録。帰国直後に行われたエスパニョールとの練習試合でも得意のドリブル突破を披露し、「持てたときはまあまあ。ドリブルもいけた」と1部のチーム相手にも技術は通用する手応えを得た。

 さらにプレシーズン最後のテストマッチでも再び1ゴールを記録。1週間後のシーズン開幕に向け順調な仕上がりを印象づけたのだが、当然ながら公式戦は甘くなかった。

ベンチ入りも危うい状況に陥る

 迎えた13年8月18日、マジョルカとのリーグ開幕戦。4−3−3の左ウイングとして先発した草民はほとんど攻撃に絡めぬまま、後半25分に途中交代を命じられる。

「がんばることしかできなかった」と言いながらも4−0の大勝に笑顔を見せたこの日は、まだ良かった。同じく先発したその後の2試合でチームは連敗。自身も判断が遅れてチャンスをつぶしたり、危険なボールロストでピンチを招いたりと中途半端なプレーが目立ち、結果としてプレー機会が徐々に減少。4節アラベス戦では初めてベンチで90分間を過ごした。

 再び先発のチャンスを得た4日後のスペイン国王杯、ラス・パルマス戦では「今までは試合にうまく入れていなかったけど、今日は自分の感覚でやれた」と話したが、パスミスやシュートミスを連発。後半14分に交代を命じられた際には、ねぎらいの拍手を受けた開幕戦とは対照的な厳しいブーイングをホームのスタンドから受けてしまう。

 その間には開幕時点で7人いたけが人が続々と復帰し、開幕後に加入した新戦力も徐々にプレー時間を得るようになっていく。気づけばサイドMFのファーストチョイスにはフアン・コジャンテスとマヌエル・ガトが定着。さらにダビ・アルテアガと新加入のパコ・スティルがベンチに控える序列ができあがり、草民は彼らに次ぐ5番手のサイドアタッカーに落ち着いてしまった。

 試合に出られなくなった選手が、一度決まった序列を覆すのは簡単なことではない。この時点で草民はかなり厳しい状況に追い込まれる。5節エイバル戦以降は出場機会が激減し、先発どころかベンチ入りも危うい状況が1カ月以上も続くことになった。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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