“フェデラーの影武者”ワウリンカが初V=全豪オープンテニス
12戦全敗も強気「気にしない」
ワウリンカは36回目のグランドスラム挑戦でついに初優勝。手負いのナダルを退け、悲願のメジャータイトルをつかんだ 【Getty Images】
ここまでの2人の対戦は12回あり、ナダルが1セットも落とさず12連勝という一方的な結果を残していた。しかし、内容は必ずしもナダルが圧倒していたわけではなかった。最後の対戦は昨年暮れのツアーファイナルで、7−6、7−6と接戦を演じている。試合前に、ワウリンカが「負けていても気にしない」と強気で話していたのは、ツアーファイナルでの手応え、前哨戦のエアセル・チェンナイ・オープンでの優勝、そして今大会の準々決勝でノバック・ジョコビッチ(セルビア)を倒した自信があったからだろう(ちなみに、ワウリンカはジョコビッチにも2勝15敗と大きく負け越していた)。
ワウリンカは好調のサーブに加えてショットの破壊力も増していたが、同じスイスの兄貴分にあたるロジャー・フェデラーと同様、片手打ちのバックハンドが危惧されていた。ナダルに左から強烈なフォアハンドでバックサイドを攻められれば、5セットマッチで高い攻撃レベルを維持するのは至難の業。しかし、ワウリンカは立ち上がりから自信いっぱいのプレーが光った。第3ゲーム、フォアのウィナーを2本、さらに切れ味のいいバックハンドをストレートに通してサービスキープした。
その直後の第4ゲームに、ナダルにやや緩慢なプレーが出た。甘いドロップショットを切り返され、ダブルフォールトで15−30に。再びドロップショットを拾われたブレークポイントでは、ラリーでも打ち負け、ワウリンカにフォアハンドのウィナーを決められてサービスダウン……。この段階で、両者の勢いの差がコートに浮かび上がった。
ナダルは第9ゲームに40−0で3本のブレークバックのチャンスを握ったものの、そこから4本連続でリターンミスを繰り返し、第1セットを奪われた。
第2セット途中、ナダルに異変が……
「ウォームアップから少し背中がおかしくて、第1セットの最後の方でひどくなった。第2セットの出だし、サーブの動きで最悪になった。でも、その話はしたくない」
暑くもないのに汗でびっしょり。ナダルのファーストサーブのスピードは時速140キロ程度まで落ち、このセットは18ポイントしか奪えずに2−6で落とした。
ナダルは試合を続行できるのか、という落ち着かない雰囲気は、ワウリンカにとっても大きな試練だった。初の大舞台で、観客の関心は完全にナダルの状態に移っている。リズムを崩せば、手負いとはいえ、相手は百戦錬磨のチャンピオンだから、何が起こるか分からない。
スイスナンバー2の男がついに栄冠
しかし、ワウリンカも自分が置かれた状況を忘れていなかった。ナダルより1歳上の28歳。36度目のグランドスラム挑戦で初めてつかんだチャンスだ。常に“フェデラーの影武者”として、スイスナンバー2に甘んじてきた男は、今回の決勝進出により、ランキングで初めてフェデラーを抜くことになる。メジャータイトルへの遠い道のりも知り尽くしている。第4セット、再びサービスに集中して第6ゲームを先にブレーク。続く第7ゲームをラブゲームで落としてしまうが、揺れる気持ちをラケットでたたきながら、第8ゲームを再度ブレークして、ついにタイトルを抱きしめた。
激しいラリーが売りの2人の対決としては物足りない内容だったかもしれない。だが、勝負の厳しさ、グランドスラムの頂点にたどり着くことの難しさを、これほど教えてくれた試合もない。満員のセンターコート、世界中のファンがテレビ中継あるいはライブスコアを見守る中で、ナダルは必死にナンバーワンらしく戦うことを模索した。
「こんな結果になって、ごめんなさい」。そう言葉にして思わず流れた涙を拭き払い、ワウリンカをたたえた。「スタンは本当に素晴らしいプレーをした。大好きな友達に『おめでとう』を言いたい」
今年も、テニスはたくさんの感動をファンにもたらしてくれるだろう。
<了>
(文:武田薫)
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