相馬に“夢”を植えたJリーガーの活動 8人の思いが込もった手作りのイベント

清水英斗

「フットボールフェスタそうま」とは?

阪田(右から3番目)を中心に8人のJリーガーが企画した「フットボールフェスタそうま」。選手たちがアイデアを出した“手作り感”のあるイベントで子どもたちを楽しませた 【浅野里美】

 11日、福島県相馬市で「フットボールフェスタそうま2014」が行われた。Jリーガーが県内の小学生を招待して、一緒にサッカーをしたり、運動会をしたり、ご飯を食べたりと、サッカー選手と一日思いっきり遊ぼうという企画だ。

 大分トリニータの阪田章裕が発起人となったイベントには、阪田のほか、木島悠、西弘則、後藤優介(以上大分)、三平和司(京都サンガ)、古部健太(V・ファーレン長崎)、夛田凌輔(ザスパクサツ群馬)、修行智仁(町田ゼルビア)、という総勢8人のJリーガーが参加した。

 キーワードは“手作り感”だ。イベントの前夜、相馬に集まった8人の選手たちは、あらかじめ準備していたイベントプログラムを修正する必要に迫られていた。「ピッチの上は、思ったよりも風が強いぞ」、「明日は寒波が来るらしい。できるだけ、子どもたちが待つ時間を少なくしよう」、「これだとちょっと難し過ぎる。みんなが楽しめる形にしないと」

 選手たちは、大分で普及コーチを務めた宋貴洋(現在はトップチーム副務)とともに、イベントの進め方や種目、景品などについてアイデアを出し合い、自ら運営に携わった。「サッカーをしている子だけじゃなくて、女の子や、あまり運動が得意じゃない子も、みんなで楽しめるようにとメニューを考えました。あと、僕たちはサッカー選手なので、チームワークを大事にできる内容にしようと」(夛田凌輔)

 サッカーのミニゲームだけではなく、リレー、しっぽ取り、そしてボール転がしなどさまざまな種目を導入。どうすれば子どもたち“みんな”が楽しめるようになるのか? イベント内容には、自主的に「参加したい」という意志でやって来たJリーガーのアイデアが反映されていた。

阪田を動かした2つのきっかけ

『フットボールフェスタそうま2014』を企画し、リーダーとなった阪田は、特に東北に縁があるわけではない。なぜ、今回のイベントを企画しようと思ったのか? そこには2つのきっかけがあった。

 11年の東日本大震災から時間が流れる中で、大分で暮らす阪田自身、少しずつ東北のことを遠くの出来事のように感じていったという。ところが12年のシーズンオフ、短期留学でスペインを訪れると、そこで外国人の友人から日本の復興の様子を気遣う声をかけられた。すでに震災から1年半が経っていたにもかかわらず、遠くスペインから被災地を気にかけてくれていることに、阪田はありがたさ以上に衝撃を受けたそうだ。

 そして、シーズンが始まった後、阪田にもうひとつのきっかけが訪れた。13年5月、「ちょんまげ隊」として被災地での活動を続けているサッカーサポーターのツンさんが、大分でJリーグを観戦後、大分サポーター向けに被災地報告会を行った。阪田はそこに個人的に足を運び、被災地の現状を知るとともに、「自分にできることは何か?」を考えるようになったという。

 日本代表クラスのように一部の有名サッカー選手ならば、被災地に対して金銭的にも物質的にも、大規模な支援を行うことができる。また、彼ら自身が被災地に関わることで、自然とメディアの注目も集まるだろう。ところが、大きなお金を得ているわけではない、一般のJリーガーの場合はそうはいかない。「自分たちには何ができるのだろう?」というもどかしい思いを、阪田たちサッカー選手も、私たちと同じように抱えているのである。

 そこで阪田が企画したのは、被災地の未来を担う子どもたちに対し、元気が出るようなお祭りを行うこと。「震災被害に起因する差別やいじめで家に引きこもるようになった子や、心の傷を誰にも話せずに抱え込む子、そうした子どもたちが外で体を動かし、彼らに活力を与えるような手伝いをしよう。自分たちにはそれしかできない」。そう考えたそうだ。

 Jリーガー自らが前夜まで、ああでもない、こうでもないとミーティングを重ねた“手作り感”のあるイベントには、そういう経緯があったのだ。

サポーターが選手を支えイベントは大盛況

イベントには多くの子どもたちが集まり大盛況。子どもたちだけではなく選手やボランティアの方々も楽しそうにしていた 【浅野里美】

「(キャッチフレーズは“ゴールも笑いも取る男”でしたが、今日のパフォーマンスは?) そうですね。今日は笑いだけじゃなく、ゴールも取れたかなと思います(笑)。子どもたちの笑顔がみんなを明るくするというのは、本当にそう思います。仮設住宅に住んでいたおじいちゃんやおばあちゃんは大変そうだし、違う都道府県の人たちが援助していかなきゃいけないという気持ちがすごく強くなりました。もし、おじいちゃんやおばあちゃんが今日ここに来てくれていたら、子どもたちの笑顔を見て元気になってくれたのかなと思います」(三平和司)

 この日、集まってくれた子どもの数はなんと146名。運営に携わったすべての人間が驚く、想定外の大盛況だった。このイベントが必要とされていたことの何よりの証明だったのではないだろうか。

「(146人も集まってくれたことは)うれしいし、この寒さで集まるのかなと思っていたけど、自分たちも楽しめたので良かったです。みんなすごく声を出して、味方を応援したり、チームワークが出ていたと思います」(後藤優介)

「なかなか来る機会がなかったので、今回、チャンスを与えてもらって、子どもたちと一緒にサッカーができるのを楽しみにしていました。全然どういう様子なのか分からなかったけど、目をキラキラさせてボールを蹴ってたし、元気が良くてビックリしました。サッカーに限らず、福島の子どもたちに元気を与えたいと思って、誰でも参加可能にして、それでこれだけ集まってくれたので、僕たちにとってもうれしかったです」(木島悠)

 そして「フットボールフェスタそうま2014」の手作り感を、より一層楽しいものにしてくれた裏方の存在も大きかった。今回、ボランティアとして参加したのは、前述の「ちょんまげ隊」と、大分サポーター「BUSTA」、相馬高校サッカー部の生徒たちだ。

 朝6時半からの会場設営に始まり、受付、得点記録、ゼッケン作り、景品整理といった多くの“手作り仕事”を彼らがサポート。さらにランチタイムには、用意されたおにぎりや芋煮のほかに、クレープ、チョコバナナ、ポップコーンといった炊き出しも実施。参加した子どもたちも喜んでくれていたが、なにより彼ら自身も楽しそうにしていたのが印象的だった。

 このようなイベントは、一人の力で成し遂げられるものではない。サポーターが選手の取り組みを支える様子は、さながらJリーグの試合のようにも感じられる。心地良い光景だった。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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