すでに日本をリード?香港競馬の『今』

橋本全弘

香港国際競走の華やかさ、盛り上がりぶり

熱気にあふれていた香港国際競走、日本競馬と何が違うのか? 【提供:橋本全弘】

 去る13日、京都競馬場で年度代表馬に選ばれたロードカナロアの引退式が行われた。スプリント部門から年度代表馬が選ばれたのは1998年のタイキシャトル以来16年ぶり2度目の快挙。春は高松宮記念、安田記念、秋のスプリンターズSなど年間を通しての活躍、圧倒的な強さが認められたものだが、それ以上に年度代表馬のタイトル戴冠の大きなポイントとなったのが国際GI香港スプリントの連覇という勲章。タイキシャトルが仏GIジャック・ル・マロワ賞を勝ったのと同様に、国内での活躍以上に香港競馬での国際GI連覇の偉業の評価の方が大きいと感じている。

 昨年12月、私は香港へ出向き、香港国際競走を観戦した。ロードカナロアの5馬身差圧勝劇、そしてトウケイヘイローの香港カップ2着の頑張りも日本人としては嬉しかったが、それ以上に感じたのは香港競馬の華やかさや盛り上がりぶり、そして国際競走として世界の競馬シーンに認知されているステータスの高さである。香港国際競走デーを観戦したことで、香港競馬が東アジアをリードする競馬組織であることを認めざるを得ない……という気持ちになった。

歴史あるJCが衰退傾向にあるのに対してなぜ?

香港スプリントではロードカナロアが圧倒的な強さで連覇を達成した 【提供:橋本全弘】

 アジア初の国際競走としてジャパンCが創設されたのは1981年。対して香港で国際競走が行われたのは7年後の1988年。しかし、今では後発の香港カップの方が世界的に認知度も高く、出走馬も世界各国から有力、実力馬が数多く参戦する。30年を超える歴史があるJCが国際競走として衰退傾向にあるのに対してなぜ、香港カップは世界的な認知度を得つつあるのか。その要因は主催者サイドの姿勢にあると言っていいかもしれない。

 現在、「香港国際競走」は1988年に始まった香港カップ(当時は香港国際招待)を軸に91年にマイル、94年にヴァーズ、99年スプリントが加わり4レースが同日に行われるビッグイベントに育っていった。2001年、アグネスデジタルが香港カップ、ステイゴールドが香港ヴァーズ、エイシンプレストンが香港マイルを優勝、日本調教馬による同日GI3勝の快挙を記憶しているファンも少なくないと思う。

 同日4GIの競馬イベントは今年で15年を過ぎ、今では米国ブリーダーズカップ・ワールド・サラブレッド・チャンピオンシップ(土日にGI13レース)や凱旋門賞ウイークエンド(GI7レース)、ドバイミーティング(GI5レース)などと肩を並べる同日(週末)複数重賞競走イベントとして世界の競馬ローテーションに組み入れられほどの認知度を得ている。

競馬本来の姿をないがしろにしてきた結果が今の差

 日本では1981年に国際競走としてジャパンカップを創設、外国招待馬にすべての遠征費用を負担するシステムで知名度の高い外国馬を招集してきたが、それ以上の改革はない。2004年、JRA50周年を記念してジャパンCとジャパンCダートが同日開催されたが、興行的(売上的)には大きな成功を得ることは出来なかったようで以後、同日GI開催は行われていない。公営競馬でさえ2001年からJBCとしてクラシック、スプリント、レディスの3GIを同日に開催。年とともにその認知度は高くなっている。売上至上主義を貫くあまり競馬自体の立ち位置や本来の姿をないがしろにしてきた結果が今の「香港カップ」と「ジャパンカップ」の差となって現れているような気がする。

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著者プロフィール

 1954年生まれ。愛知県出身。早稲田大学教育学部英語英文学科卒業後、スポーツニッポン新聞東京本社に入社。87年、中央競馬担当記者となり、武豊騎手やオグリキャップ、トウカイテイオー、ナリタブライアンなどの活躍で競馬ブーム真っ盛りの中、最前線記者として奔走した。2004年スポニチ退社後はケンタッキーダービー優勝フサイチペガサス等で知られる馬主・関口房朗氏の競馬顧問に就任、同オーナーとともに世界中のサラブレッドセールに帯同した。その他、共同通信社記者などを経て現在は競馬評論家。また、ジャーナリスト活動の傍ら立ち上げた全日本馬事株式会社では東京馬主協会公式HP(http://www.toa.or.jp/)を制作、管理。さらに競馬コンサルタントとして馬主サポート、香港、韓国の馬主へ日本競馬の紹介など幅広く活動している。著書に「名駿オグリキャップ」(毎日新聞社)「ナリタブライアンを忘れない」(KKベストセラーズ)などがある。

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