圧巻の星城と総力戦を制した九州文化学園=第66回 春高バレー総括

田中夕子

打てるだけじゃなく守りもすごい

男子の優勝は星城。攻守に圧巻のバレーを見せつけ2年連続の三冠を達成した 【坂本清】

 コートの中でも冷静に、どんな時でも熱くなり過ぎないのが持ち味でもある、星城高校(愛知)のエースでキャプテン、石川祐希の目から涙が溢れた。

「勝ってうれしいということよりも、このメンバーで戦うのはもうこれで最後。本当に終わっちゃったんだな、と思ったら寂しくなりました」

 インターハイ、国体、高校選手権(春高)。高校バレーの主要タイトルを、星城高校は昨年からすべて制し、2年連続の三冠という大記録を打ち立てた。チームの誰もが「苦しい時に、必ず決めてくれる大エース」と口をそろえる石川の存在もさることながら、山崎貴矢、神谷雄飛、武智洸史といった高い攻撃力を誇る選手がズラリと顔をそろえる。その選手たちにマークが集まったところで着実にミドルブロッカーの佐藤吉之佑が得点につなげ、守備はリベロの川口太一が固める。

 その中で、司令塔として抜群の安定感を誇るセッターの中根聡太が言う。「打てるヤツだけじゃなく、守りもすごい。こんなチームは、そう簡単にできないですよ」
 
 昨秋の東京国体で、東福岡を主体とする福岡選抜に勝利はしたものの、主導権を握っていたのは相手のほう。サーブで崩され、攻撃が石川頼みになったことが、苦戦を招いた1つの要因だった。

 このまま春高に臨んだら負ける。

 より正確で、負けないバレーを構築するために、東京国体を終えてからはサーブレシーブを中心とした守備練習に重きを置いた。コートを縦に3分割し、アタックラインに台を置く。その上から放たれるサーブを3コースに分かれた選手たちがレシーブ。1本目は前に、2本目は後ろに、3本目はサーバーの判断で前後どちらかに打つ3本×1セットのサーブレシーブを15分繰り返した。

 レシーバーの滝沢将吾はこう言う。「1本の精度を高めるために、『量より質にこだわろう』と、みんなで話し合って決めました」

能動的に選手の意思で戦略を立てる

 監督やコーチの指示する練習メニューをそのまま受動的に行うチームが少なくない中、星城・竹内裕幸監督が「試合前のミーティングをしないのも、星城の伝統」と言うように、普段の練習メニューや、試合中の戦略も選手たちが自分たちで考えて実践する。

 たとえば準決勝の東福岡戦。準々決勝まで高い決定力を見せていたた東福岡のバックアタックに対し、星城のブロッカー陣はあえて飛ばず、ノーマークで打たせた。その狙いを川口が明かす。

「最初はブロックをつけてプレッシャーをかける。そうすると、相手の打つコースが限られてくるんです。だからノーブロックで打たせても、その限られたコースにレシーバーがいて、ボールを上げれば相手にはブロックが飛ぶ以上のプレッシャーとダメージを与えられる。繰り返して行けば、きっと大事なところで相手はビビって打てなくなるだろうから、ラリー中のバックアタックはブロックを飛ばずにプレッシャーをかけようと、試合中に話し合って決めました」

 相手の思惑を読み、さらにその1枚、2枚上を行く。対戦相手からすれば、為す術がなくなって当然と言っても過言ではない、まさに圧巻、と言うべき強さを最後まで発揮した。

将来が楽しみな東京五輪の主力たち

試合中の戦略も選手たちが自分たちで考えて実践する。これほどに成熟した高校生のチームが現れることはないだろう 【坂本清】

 中根の言葉を借りるならば、おそらくもう、これほどに成熟した高校生のチームが現れることはないだろう。

 その寂しさを感じる一方で、2020年の東京五輪ではおそらく主力となるであろう、彼らのこれからに対する期待や楽しみは高まるばかりだ。竹内監督が「ここでしか通用しないバレーボール選手にするのではなく、何でもできる、“バレーボール”ができる選手を育てたいと思ってやってきた」と言うように、石川、武智はセッター経験も積んできた。

 卒業後は豊田合成トレフェルサへの入団が決まっている川口が、目を輝かせて言う。

「日の丸をつけて、またこのメンバーで戦いたいです」

 最強星城を知る者なら、きっと誰もがその日を心待ちにしている。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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