戦術から見る帝京大の5連覇=「つまらない」ラグビーから進化
3連覇までは「つまらない」という批判の声も
1年生SO松田(中央)は冷静な判断とスペースを見極める力で早稲田ディフェンスを突破した 【斉藤健仁】
帝京大は10年ほど前から、栄養面の重要性にいち早く気づき、フィジカルを鍛えて、その優位性を前面に出して戦ってきた。特に3連覇まではFWの近場でボールをキープし続け、相手が反則を犯すとキックで陣地を進め、モールを形成してトライにつなげる――という戦い方を、特に決勝戦では選択。そのため、一部ファンやメディアからは「FW一辺倒のラグビーはつまらない」、「もっとボールを展開すべき」という声も聞かれた。
だが、昨年からは違った。日本代表やサントリーでも採用されている「アタック・シェイプ」という戦術を柱に据えた。シェイプとは、簡単に言えばサッカーで言う陣形で、攻撃の型。セットプレーから2〜3次攻撃まではサインプレーだが、その後はSHとSOの周辺にFWの選手を2人ほど配置。それを基本的には順目(同じ方向への攻撃)に連続することによって相手のディフェンスのノミネート(マーク)を外す、またはミスマッチを誘うなどして相手を崩す。
前半が布石となり、後半にスペースを生み出す
前半、帝京大は9番を着けるSH流大(3年)を起点とする「9シェイプ」を軸に戦い続けた。ただ「双方アタック力があるので、ボールを保持したチームが有利」(岩出監督)と言うとおり、ボールキープを主眼に置いていた。そのためシェイプに立つFW選手同士の幅は狭く、早稲田大のPR垣永真之介(4年生)らを中心としたFWのプレッシャーもあり、有効な攻めに至っていなかった。
それでも、前半が布石となった。12−10で迎えた後半1分、帝京大は接点でターンオーバーすると身長194センチのLO小瀧尚宏(3年)がビックゲインし、相手ゴール前に迫る。そこから「9シェイプ」ではなく、FWをデコイ(=おとりランナー)として、相手の流れてくる「ドリフトディフェンス」を止めつつ、SO(10番)を起点とする「10シェイプ」で攻撃。見事に左サイドにスペースを作りだし、WTB磯田泰成(3年)がトライを挙げた。
「松田の2トライはSHとしては会心」
司令塔の一人、SH流(左)は後半のトライを「会心」と振り返った 【斉藤健仁】
前半は「9シェイプ」で攻撃し、体を当て相手FWの体力を奪いつつ、後半は「10シェイプ」でアタックしてトライを重ねた。ディシジョンメーカーの一人、SH流は「松田の2トライはSHとしては会心です。最低でも1対1ができるようにFWとBKのバランスを考えて攻めた」。また副将のNo.8李聖彰(4年)は「意識的にボールを動かせた。ある程度(試合前に考えていた)戦略通りに戦えた」と振り返った。