戦術から見る帝京大の5連覇=「つまらない」ラグビーから進化

斉藤健仁

3連覇までは「つまらない」という批判の声も

1年生SO松田(中央)は冷静な判断とスペースを見極める力で早稲田ディフェンスを突破した 【斉藤健仁】

 50回の節目を迎えたラグビー大学選手権。帝京大がFWとBK一体となってボールを動かして41−34で早稲田大を退け、前人未踏の5連覇を達成。CTB中村亮土主将(4年)が、赤に染まったスタンドに優勝カップを掲げた。
 帝京大は10年ほど前から、栄養面の重要性にいち早く気づき、フィジカルを鍛えて、その優位性を前面に出して戦ってきた。特に3連覇まではFWの近場でボールをキープし続け、相手が反則を犯すとキックで陣地を進め、モールを形成してトライにつなげる――という戦い方を、特に決勝戦では選択。そのため、一部ファンやメディアからは「FW一辺倒のラグビーはつまらない」、「もっとボールを展開すべき」という声も聞かれた。

 だが、昨年からは違った。日本代表やサントリーでも採用されている「アタック・シェイプ」という戦術を柱に据えた。シェイプとは、簡単に言えばサッカーで言う陣形で、攻撃の型。セットプレーから2〜3次攻撃まではサインプレーだが、その後はSHとSOの周辺にFWの選手を2人ほど配置。それを基本的には順目(同じ方向への攻撃)に連続することによって相手のディフェンスのノミネート(マーク)を外す、またはミスマッチを誘うなどして相手を崩す。

前半が布石となり、後半にスペースを生み出す

 この戦術はFWをBKにも配置しなければならないため、少人数でボールの球出しが必要である。フィジカルと同時にフィットネスの強化も欠かせず、「簡単にはできない」(帝京大・岩出雅之監督)。「一年間、積み上げてきたことが結果として報われた」と中村主将が言う“積み重ね”が現れたのは後半、最初の20分だった。

 前半、帝京大は9番を着けるSH流大(3年)を起点とする「9シェイプ」を軸に戦い続けた。ただ「双方アタック力があるので、ボールを保持したチームが有利」(岩出監督)と言うとおり、ボールキープを主眼に置いていた。そのためシェイプに立つFW選手同士の幅は狭く、早稲田大のPR垣永真之介(4年生)らを中心としたFWのプレッシャーもあり、有効な攻めに至っていなかった。

 それでも、前半が布石となった。12−10で迎えた後半1分、帝京大は接点でターンオーバーすると身長194センチのLO小瀧尚宏(3年)がビックゲインし、相手ゴール前に迫る。そこから「9シェイプ」ではなく、FWをデコイ(=おとりランナー)として、相手の流れてくる「ドリフトディフェンス」を止めつつ、SO(10番)を起点とする「10シェイプ」で攻撃。見事に左サイドにスペースを作りだし、WTB磯田泰成(3年)がトライを挙げた。

「松田の2トライはSHとしては会心」

司令塔の一人、SH流(左)は後半のトライを「会心」と振り返った 【斉藤健仁】

 12分も同様。SH流のキックの後、ボールを外に展開。3人のFWをおとりとして外にスペースを作り、SOに入っていた中村を起点とし、最後はFB竹田宜純(4年)をフォローしたSO松田力也(1年)がトライ。続く15分、やはり帝京大はFWをおとりとしてSO松田にパス。松田は早稲田大のディフェンスがノミネートできずに、しかもギャップができていた一瞬を見逃さず、ラインブレイク。FBで培ってきた得意のランで50メートルを走り切って右隅に飛び込み、34−10とし大きくリードした。「いっぱいボールに触れるSOはやりがいがあるし、徐々に前が見えてきました」(松田)

 前半は「9シェイプ」で攻撃し、体を当て相手FWの体力を奪いつつ、後半は「10シェイプ」でアタックしてトライを重ねた。ディシジョンメーカーの一人、SH流は「松田の2トライはSHとしては会心です。最低でも1対1ができるようにFWとBKのバランスを考えて攻めた」。また副将のNo.8李聖彰(4年)は「意識的にボールを動かせた。ある程度(試合前に考えていた)戦略通りに戦えた」と振り返った。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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