仙台に訪れた突然のシーズンオフ=天皇杯準々決勝 仙台対FC東京

宇都宮徹壱

準々決勝の取材先をユアスタにした理由

手倉森監督を最高の形で送り出したい。仙台サポーターは本気で国立を目指していた 【宇都宮徹壱】

「杜の都の手倉モリ もちろん国立に行くつもり」

 クリスマスソング一色のBGMが流れる中、ユアテックスタジアム仙台のゴール裏に、ひときわ目立つ横断幕が掲げられていた。ベガルタ仙台のサポーターは間違いなく、元日・国立競技場を目指している。天皇杯での過去最高成績は2009年のベスト4。今大会はそのさらにひとつ上を目指して、今季で退任する手倉森誠監督を送り出したいところだろう。対するFC東京のサポーターは、その多くがサンタクロースの赤い帽子をかぶっていた。天皇杯のこの時期、クリスマス気分を存分に演出するのはFC東京の風物詩となっているが、去年は2回戦で早々に敗退してしまった。それだけに今年は、準々決勝でクリスマスソングを、そして準決勝では「もういくつ寝ると、お正月」を歌いたくて、うずうずしているはずだ。

 クリスマスを3日後に控えた、3連休中日の12月22日、天皇杯の準々決勝4試合が行われた。ただし私自身は、久々の天皇杯取材。今年は10月と11月に日本代表の欧州遠征があったため、3回戦と4回戦の取材を断念せざるを得なかった。唯一の都道府県代表として4回戦に進出し、横浜F・マリノスと激闘を繰り広げたAC長野パルセイロを見られなかったのは、返す返すも残念でならない。結果として、ベスト8に名乗りを挙げたのは、すべてがJ1クラブ。会場は、仙台のユアスタ、広島のエディオンスタジアム広島、大分の大分銀行ドーム、そして鳥栖のベストアメニティスタジアムだが、私は迷うことなくユアスタを目指すことにした。

 私がこのカードにピンときたのには、ふたつの理由があったからだ。まず、4つのカードの中で唯一、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を経験したチーム同士の対戦であること。今季のリーグ戦では、仙台が13位でFC東京が8位。アジアへの挑戦権を再び手にするには、この天皇杯を制する以外に道はない。そしてもうひとつ、仙台の手倉森監督はリオデジャネイロ五輪出場を目指すU−21日本代表監督に就任、FC東京のランコ・ポポヴィッチ監督も契約は今季限り(来季はセレッソ大阪の監督に就任すると見られている)。このトーナメントに敗れた段階で、ラストゲームとなる。ACL出場と監督退任、この2つの要素が試合をより白熱させると踏んで、底冷えのする杜の都を訪れた次第である。

試合の流れを変えたFC東京のベンチワーク

優勝争いした前年から一転、13位に終わった仙台だが、序盤から仕掛けて先制する 【宇都宮徹壱】

 先制したのはホームの仙台だった。開始早々の3分、右サイドを太田吉彰がドリブルで持ち込んでクロス。これに梁勇基(リャン・ヨンギ)が右足で反応するも、FC東京のGK塩田仁史がセーブする。しかし、赤嶺真吾が拾って梁が左から折り返すと、相手DFに当たったセカンドボールをウィルソンが右足ダイレクトで押し込んだ。その後も仙台は優位に試合を進め、太田から繰り出される相手DFラインの裏を狙ったパスから、25分には梁が、そしてその4分後には赤嶺が、いずれもGKと1対1の場面を作った。どちらかが決まっていたら、試合の行方は早々に決まっていたかもしれない。

 一方、序盤で出鼻をくじかれたFC東京は、前半はピリッとしない展開が続いていたものの、その中で攻撃の起点となっていたのが左サイドバックの太田宏介であった。前半23分、長谷川アーリアジャスールのパスを受けて左サイドをドリブルでえぐってラストパス。中央で待ち構えていた米本拓司のシュートはバーを超えた。そして29分の、ペナルティーエリア左角付近からのセットプレーでは、渡邉千真がヘディングシュートを放つも、こちらも枠内を捉えるには至らず。後半に入ると、FC東京が持ち前のパスワークを発揮してさらに攻勢を強めていくが、やはりゴールは遠い。

 流れを変えたのは、FC東京のベンチワークであった。後半7分にヴチチェヴィッチに代えて石川直宏、21分に渡邉に代えて平山相太を投入。前線にスピードと高さが加わったことで、さらに攻撃に活気とバリエーションが増してゆく。「前回の仙台戦(J1最終節12月7日)を見て、仙台の運動量が落ちてくるというのは分かっていた」とは試合後のポポヴィッチ監督の弁。切り札となり得る選手を、ぎりぎりのタイミングまで温存していたのには、彼なりの確信があったのだろう。

 しかしながら、終了間際の後半40分に、東慶悟を下げて2年目のFW林容平をピッチに送り出したのは、正直意外であった。今季、リーグ戦での出場は3試合のみ。しかも出場時間は、合計してもわずか7分である。この時、林が大仕事をやってのけるとイメージできたのは、FC東京のゴール裏でも少数派だったと思う。ポポヴィッチ監督自身、「すべては結果論」と語った上で「モリーニョだったら、もう少し自画自賛的なコメントを出すだろうね」と語って、記者の笑いを誘っていた。思うに、林の起用は決して理詰めではなく、多分に指揮官のインスピレーションによるものだったのではないか。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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