高橋大輔、あくまで貫いた強気の姿勢

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層が厚くなった男子フィギュア界

全日本選手権を2連覇で制した羽生(左)も高橋の背中を追いかけてきた一人。高橋の存在があって、層の厚い今日の男子フィギュア界がある 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 今大会を圧倒的な演技で制した羽生はまだ19歳。昨年の全日本選手権で高橋を破り、初優勝を飾った際には「まだまだ雲の上の存在」と謙遜していたが、今季のグランプリ(GP)シリーズで世界王者のパトリック・チャン(カナダ)としのぎを削ったことでレベルをさらに上げた。GPファイナルを世界歴代2位の得点(293.25点)で制すと、勢いそのままに全日本選手権ではそのスコアをさらに上回る297.80点をたたき出した。それでいて「点数は出ましたけど、現段階では自身の演技を反省して、次の試合に生かしたいという気持ちです」と語るあたりが、さらなる飛躍を予感させる。

 2位の町田樹(関西大学)は高橋にあこがれ、高校・大学と同じ道を歩んできた。昨年まではシーズン中盤以降に失速するケースがあり、継続性にやや疑問符が付けられていたが、今季はそれを克服。GPシリーズで2連勝を飾り、GPファイナルでは4位とやや不本意な結果に終わったものの、五輪が懸かった全日本選手権ではSP、FS共に見事な演技を披露し、成長を見せつけた。「高橋大輔という偉大な存在を超えたい。全日本選手権で勝ったときこそ、本当に勝ったと思える」と話す23歳は、この結果で五輪出場をほぼ確実なものとしている。

 彼らは高橋大輔という存在にあこがれ、目標としてきたからこそ、ここまでの成長を遂げることができたのだ。これもひとえに高橋が世界の舞台で結果を残し、男子フィギュア界をけん引してきた功績だろう。高橋自身も後輩の成長を喜んでいる。

「今回の全日本選手権は厳しかったです。自分の調子が上がってこなかったのもそうなんですけど、男子フィギュア界もここまで層が厚くなったので。それはうれしかったし、そのなかで一緒に戦えたのは良かったと思います」

五輪に出場できなければ即引退も

バンクーバー五輪後4年間、走り続けてきた高橋大輔。その終えんは確実に近づいてきている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 5位に終わったとはいえ、高橋は五輪出場の基準を満たしているため、まだソチへの道は閉ざされていない。全日本選手権3位の小塚崇彦(トヨタ自動車)と最後の椅子を争うと見られている。日本スケート連盟は難しい決断を迫られることになるだろう。ソチ五輪を最後に現役引退を表明している高橋は、FS後にあらためて自身の身の振り方について言及した。

「五輪、世界選手権、四大陸とありますけど、自分の中で四大陸とかは考えていません。五輪しか考えていなかったので、それ以外だったら自分では終わりと思っています」

 つまり五輪の出場権を獲得できなかった場合は、今回の全日本選手権が最後の試合となる可能性が高いということだ。高橋自身もその覚悟は決めている。
「プログラムとしてのパワーは出せたと思っています。これが最後になるかもしれないですし、最後になってもいいという気持ちで感謝を込めて演じました」

 本来はバンクーバー五輪後に引退するつもりだった。しかし「自分はスケートが好きだと確信できたから」現役を辞めなかった。長光コーチもそんな教え子をねぎらう。
「最大限の努力をしてきて良かったなと思います。本当にここまでこれるとは思っていなかったので、無事に今日滑り終えて『お疲れ様』と言ってあげたいです。バンクーバー五輪のシーズンで終わるつもりが4年間よく走り続けてくれたなと思います」

 結果を出すために4回転ジャンプを回避する選択肢はあった。それでも「やらずにというのは意識しなかった。自分らしいと思います」と、あくまで強気の姿勢を貫いた。歴史の終えんは確実に近づいている。しかし、高橋が見せてきたこうした姿勢は後世に必ず受け継がれていくはずだ。

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)

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