高橋大輔、あくまで貫いた強気の姿勢
滑り終わった瞬間「五輪はもうないんだろうな」
全日本選手権・男子FSの演技後、必死で涙をこらえた姿が印象的だった高橋 【坂本清】
12月22日に行われたフィギュアスケートの全日本選手権。有力選手がひしめいた男子FSは羽生結弦(ANA)が優勝し、来年2月に開催されるソチ五輪への出場を決めた。その一方で高橋は5位に沈み、出場権獲得に暗雲が立ち込めた。
11月下旬に負傷した影響はやはり小さくなかった。前日のショートプログラム(SP)では、冒頭の4回転トゥループで両足着氷。続くトリプルアクセルでも転倒するなど、要所でミスが相次ぎ、4位に終わった。「足がしんどかろうが痛かろうが、自分の気持ちはしっかり持って、SPの悔しい気持ちをFSにつなげていけたらなと思います」と、逆襲を誓っていたが、この日も本来の出来とは程遠かった。
冒頭の4回転トゥループは転倒。続く4回転も回転不足で両足着氷となってしまい、その後もトリプルループで着氷が乱れるなど、SP同様クリーンな演技を披露することができなかった。フィニッシュでは何かを悟ったような悲しい笑顔を見せ、キス&クライでは必死で涙をこらえた。「五輪はもうないんだろうな」。滑り終わった瞬間、そう思ってしまったという。
高かった壁……「悔しさ」残った全日本
右手から流血しながら演技を続ける高橋。演技後、「悔しい」との言葉を何度も繰り返していた 【坂本清】
演技終了後、ミックスゾーンに現れた高橋は目を真っ赤に腫らしながら、「悔しい」という言葉を何度も繰り返した。本来の滑りを披露し、自身の実力を出し切っての結果ならまだ納得できる。しかし、五輪出場が懸かる大舞台で、不本意な出来に終わった無念さは想像を絶するものがある。直前でけがをした自身に対する悔恨も含まれていたはずだ。
高橋を長年指導し続けている長光歌子コーチは、目に涙をためながら思いの丈を吐き出した。
「正直、あと1週間欲しかったです。最後、五輪を決める全日本選手権で、万全でなかったことが、本人もそうですし、周りの人たちにとっても残念です」
1週間というそのわずかな時間があれば、状態はもっと良くなっていたのだろう。結果も変わっていたかもしれない。しかし、高橋はその仮定を否定する。
「これが自分の実力だと思うので、それは受け止めたいと思います。けがの影響もなかったとは言えないと思いますけど、それで逃げている自分もいた。たぶん僕のスケート人生で一番苦しかった全日本選手権だと思います。その厳しい壁を乗り越えられなかった自分自身に対して、もっとできる自分がいるんじゃないかという気持ちもあるんですけど、それができなかった」
これまで幾多の試練を乗り越えてきた高橋も、今回ばかりは壁が高かった。それだけ日本男子のレベルが上がったということだ。