サッカーのピリオダイゼーションとは=海外で日本人が伝えるコンディショニング

中田徹

オランダ3部で信頼を集める相良浩平

相良はオランダのアマチュアチームでコンディショニング・トレーナーを務めている 【Ruud Voest/ルート・フースト】

 人口2万人の漁村、スパーケンブルフにアイセルメールフォーヘルスというオランダ3部リーグに所属する強豪アマチュアチームがある。オランダのアマチュア王者になること国内最多の7回。1975年にはKNVBカップで次々とプロチームを破って準決勝まで進出したが、トゥエンテの前に力尽きた。

 今季のKNVBカップでアイセルメールフォーヘルスは、2回戦でヘルモント、3回戦でエメンとプロチームを続けて破った。4回戦の相手はオランダ一の名門、アヤックス。両チームのユニホームは白地に太く赤の線と、非常によく似ている。アイセルメールフォーヘルスのエンブレムには赤い星が7つあり、アヤックスの方には優勝回数32回ということで黄金の星が3つある(優勝10回ごとに1つ)。このアマ、プロ名門の激突に、村の半分近い8000人がスタジアムに訪れ、熱い声援を贈ったものの0−3でアイセルメールフォーヘルスは敗れてしまい、今季3度目のジャイアント・キリングはならなかった。

 それでも時間帯によってはアイセルメールフォーヘルスが完全に中盤を支配し、高いプレッシングからのショートカウンターも披露。5度の決定機を作って、アヤックスを慌てさせた。ヘルト・クライス監督がロッカールームで「アヤックスに0−2、0−3とされても決して諦めるな。村の誇りを背負って戦え!」と飛ばした檄に選手は応えた。アヤックスのフランク・デ・ブール監督も「彼らはしっかりフットボールができるチームだった」と賞賛を惜しまなかった。

 試合後のロッカールームの前で、クライス監督がひとりの日本人を見つけ、「浩平、お疲れ。ありがとう」と握手をしてねぎらった。2人の顔はやりきったという表情に満ちていた。

 浩平とは、アイセルメールフォーヘルスに入団して4季目のコンディショニング・トレーナー、相良浩平のことだ。シーズンが開幕して5カ月、非常にけが人が出やすい時期だが、アイセルメールフォーヘルスは2人のけがで収まっている。ねんざと前十字じん帯の負傷ということで、筋肉系のけがではない。

「浩平はコンディショニングのエキスパート。私は彼からいつもディテールのアドバイスをもらっている。うちのチームはコンディションの良さで勝っている。けが人も少なく、浩平には本当に助かっている」(クライス監督)

コンディションが成績を左右する

 アヤックスのコンディションも素晴らしかった。リーグ戦、UEFAチャンピオンズリーグ、そしてこの日のKNVBカップと日程がタイトな中、最後までアヤックスの運動量は落ちず、技術のブレも起こらなかった。

「普段の試合だとうちのチームがボールを持っている時間が長いんですが、今回はやはりアヤックスの方がボールポゼッションが高く、うちは走らされてしまって最後は体力が厳しくなってしまった」(相良)

 10年以上前からアヤックスのコンディショニング・トレーニングは批判を浴びていたが、今季になってすっかり改善され、けが人も減っている。

「アヤックスはちょっと変わっていて、陸上経験のあるトレーナーをコンディショニング・トレーナーに採用して、練習場にも起伏のあるトラックがある。個々の選手に応じたトレーニングをしているのも大きい。またデ・ブール監督が出場時間や疲れを考慮して選手を起用しているのも効いている」(相良)

 オランダリーグでは、けが人の少ないフィテッセとアヤックスが上位2位を占めている。相良がコンディショニングを指導するアイセルメールフォーヘルスも、オランダ3部リーグ(セミプロ相当)で首位を走っている。今、オランダではコンディションの良いチームが順位表の最上位にいるという現象が起こっている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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