オルフェの背で味わった希望と絶望
池添が三冠、逸走、有終の有馬を語る
オルフェーヴル引退ラン直前、3年半苦楽をともにした主戦・池添が最愛の相棒を語る
オルフェーヴル引退ラン直前、3年半苦楽をともにした主戦・池添が最愛の相棒を語る【netkeiba.com】

 三冠制覇、GI5勝、凱旋門賞2年連続2着という輝かしい勲章を誇ると同時に、阪神大賞典での逸走など、個性的な一面も持ち合わせているオルフェーヴル。その稀代の名馬が、有馬記念を最後に引退する。頂点の喜びと共に地獄のような苦しみも味わった、主戦池添謙一騎手に、現在の心境を語ってもらった。(取材・文:赤見千尋)

有馬で4冠を獲った後はプレッシャーがキツかった

一番うれしかったのはダービー
一番うれしかったのはダービー【netkeiba.com】

 オルフェーヴルとコンビを組んで3年半。池添は、どんな想いでこの時間を過ごして来たのだろうか。


「この馬がデビューしてからは、頭から離れることはなかったですね。3年半、ずっとです。新馬戦でいい勝ち方をして、クラシックへの手応えを感じ、そこから実際に三冠獲って。古馬になってからもいろいろありましたからね。有馬記念で最後ですが、今はまだ実感はないです。淋しさは、レースが終わってから感じるんじゃないですかね」


 この3年半、オルフェーヴルと共に歩んだ道のり。1番人気でのダービー制覇、そして三冠達成、3歳での有馬記念制覇。池添の心に一番強く刻まれたレースは――。


「一番嬉しかったのは、やっぱりダービーです。この馬に乗ってガッツポーズしたのはダービーだけなんですよね。よくあの時ガッツポーズ出来たなと思いますよ。いつも落とされますからね(笑)。一番緊張したのは菊花賞。三冠が懸かってましたから、またダービーとは違うプレッシャーがありました。ゴールした瞬間は、嬉しさよりもホッとしたというのが一番でしたね。その後は有馬記念で4冠目を獲って、負けちゃいけない馬になったので、プレッシャーもキツかったです」

世紀の大逸走を振り返る

“世紀の大逸走”となった12年阪神大賞典ではオルフェーヴルに何が起こったのか?
“世紀の大逸走”となった12年阪神大賞典ではオルフェーヴルに何が起こったのか?【netkeiba.com】

 無事に三冠を達成し、その年の有馬記念も制したオルフェーヴルは、池添の言葉通り負けてはいけない馬になった。しかし、古馬になっての初戦・阪神大賞典で、レース途中で外へ逸走、その後猛烈に追い上げて2着という、誰もが目を疑うような負け方をした。


「まさかレース中にああいう風になると思わなかったです。一瞬止めようかと思ったんですけど、もうしがみついてるしかなかったです。『やってしまった……』という感じでした。ハミは利かないし、なんとか止めようとした時に、内側の馬が見えたんですよ。そしたら、自分から追いかけて行ったんです。『戻るんかい!』って思わず言ってしまいました(苦笑)。レースが終わったと思ったのに、まだだったって思ったんでしょうね。言葉を交わすことはできないので、どう思っていたのかはわからないですけど。周りのジョッキーもびっくりしてました。安藤さんは二度見してましたし、福永先輩もゴールした後、『え?』って感じで二度見してましたから。普通なら止まってますもん。外行って、戻って、しかも2着って……。でも、あそこまで行ったら勝たなきゃいけなかったんですけど」


 この世紀の大逸走は、競馬ファンのみならず、日本中を驚かせた。続く天皇賞・春も、1番人気に支持されながらの11着。一度崩れた歯車は、三冠馬オルフェーヴルといえどもなかなか元には戻らなかった。


「阪神大賞典と天皇賞の時は、騎手を辞めようかなって初めて思いました。今までそんなこと思ったことなかったですけど、相当ヤジられましたし(苦笑)。精神的に、かなりキツかったです。なかなか眠れなかったり、夢に阪神大賞典が出て来て、ハッと目が覚めることもありました。でも、宝塚記念もこのまま行くからって言っていただきましたし、乗り越えなきゃいけないなって思いました。宝塚に挑む時は、『もう天皇賞と大賞典とは違うんだ』って思って。レースも2200mですし、『この馬の競馬をすれば大丈夫だ』って信じてました」


 迎えた宝塚記念。オルフェーヴルは中団でキッチリと折り合い、4コーナーで馬群を割って内から進出。池添に導かれ、再び圧倒的なパフォーマンスを見せた。


「宝塚は折り合いもしっかり付きましたし、内に入って行ったのもいい判断だったと思います。自分の中でも上手くレースが出来たなって思いますし、自分が助けることが出来たレースだったんじゃないかなって思いました。一時は本当に辛かったけど、そこから勝てたので、自信にもなりました。宝塚を勝ったら凱旋門賞へ行く予定だったので、その時は自分も一緒に行けるって思っていたので、もうウキウキでしたね」


 大きな試練を乗り越えた先に掴んだ、宝塚記念完勝の喜び。しかし、池添は再び絶望を味わうことになる。次なる試練は、凱旋門賞乗り替わりという現実だった。

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