オルフェの背で味わった希望と絶望=池添が三冠、逸走、有終の有馬を語る

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久しぶりに味わうオルフェの背中

久しぶりに味わうオルフェーヴルの背中、「嬉しいっていう気持ちがほとんど」と池添は語る 【netkeiba.com】

 いよいよラストラン。もう一度オルフェーヴルとコンビを組む、今の率直な気持ちは――。

「宝塚記念を回避した時に、正直もう乗れることはないのかなと思ってました。それがまた最後に有馬記念に乗れる。もう嬉しいっていう気持ちがほとんどですね。プレッシャーよりも、乗れる喜びの方が今は大きいです。久しぶりにオルフェーヴルの背中に乗るわけですけど、やっぱり全然違います。すごくいいですよ。気持ちいいです。『ああ、オルフェーヴルに乗ってる』って思います。調教だけでも緊張しますね」

 頂点に立つ喜びと、騎手を辞めたくなるほどの苦悩を教えてくれたオルフェーヴル。池添にとって、どんな存在なのだろうか。

「与えてもらったものが大きすぎますよね。三冠ジョッキーにしてもらったし、走る馬っていうのはこういうものなんだ、こういう背中なんだっていうのも教えてもらいました。この先ジョッキーをやっていく中で、これは大きな財産だと思います。この馬とは、本当に色んなことがありましたからね(笑)。メンタル面はすごく強くなったと思いますよ。そうじゃないと多分やっていけないから。本当に特別で、感謝してもしきれない馬ですね」

 池添はこれまでにも、数多くのGIを勝っている。しかもそのお手馬たちは、オルフェーヴルがそうであったように、一筋縄ではいかない個性派揃いだ。

「スイープトウショウ、デュランダル、ドリームジャーニーと、みんな気性がキツくて自分を出して来る馬たちなんですよね。何故かそういう馬ばっかり集まって来るので、自分はもう、そういうジョッキーなのかなと思ってます(笑)。でも、そういう馬たちには、やっぱり能力があるんですよ、みんな。変なことするっていうのは、余裕があるから出来るんじゃないですかね。あの馬たちがいたからこそのオルフェーヴルって思います。実際、デュランダルの騎乗を見て池江先生がドリームジャーニーに合うんじゃないかって思って乗せてくれましたし、それで弟のオルフェーヴルにも乗せていただいて。だから、全部が繋がってるんです」

この馬が一番強いんだって証明したい

「最強」であることを有終の美で今一度、証明したい 【netkeiba.com】

 オルフェーヴルとドリームジャーニーの母であるオリエンタルアートにも騎乗し、全3勝すべてを挙げている。

「現役時代の深い印象はないんですけど、やっぱり気性はキツかったのかな。今年牧場に会いに行ったんですけど、めっちゃうるさかったです(笑)。もうけっこういい年で、普通の馬なら大人しくなるのに、牧場の方もこの馬は変わらないっておっしゃっていました。ドリームジャーニーにも会いに行きましたけど、前脚で叩いてこようとしたから、もう遠目から写真を撮るだけにしました(笑)。お世話になった馬たちには、なるべく会いに行ってます。デュランダルも、毎年夏に北海道に行ってる時に会いに行ってたんですけど、今年死んでしまって。トールポピーにも会いに行ってたんですけど、死んでしまったので今は手を合わせに行ってます。やっぱり、その馬たちがいてこそですし、主役は馬ですから。馬たちに食べさせてもらってるし、この馬たちがいたからこその自分なんで。感謝ですよね」

 現役時代に活躍し、種牡馬や繁殖牝馬になった馬たちが、また新たな世代を生み出していく。まさに、ブラッドスポーツである競馬の醍醐味だ。

「僕が乗せてもらってて種牡馬になった馬たちが、ちょっとずつ増えて来ましたね。次の世代に乗るっていうのは、騎手としての楽しみの一つだし、醍醐味だと思うんです。オルフェーヴルもあと1レースありますけど、次の仕事が待ってるんでね。そしたら子供が生まれて来るのも楽しみですよね。あと、弟が1歳なんですけど、オルフェーヴルにそっくりなんですよ。栗毛で、顔に流星もあって。その馬たちに乗せてもらえるように、しっかり成績を挙げないといけないと思ってます」

 いよいよ、オルフェーヴルと共に歩んだ3年半の集大成、最後の有馬記念が目前に迫っている。

「有馬記念で最後なので、有終の美をしっかり飾りたいです。しかも、その日のレース終了後に引退式もあるので、負けたら大変なことになりますから(苦笑)。残念ながら、キズナやエピファネイアが出られないということですけど、僕としては出て来て欲しかったです。ジェンティルドンナも出て来て、強い馬みんなが揃ってる中で勝って、この馬が一番強いんだって証明したかったです。でも勝負なんでね、与えられた舞台で全力投球するだけです!」

池添を背にした、稀代の名馬オルフェーヴルの最後の走り。しっかりと胸に焼き付けたい。(了・文中敬称略)

池添 謙一(いけぞえ けんいち)

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1979年7月23日生まれ、滋賀県出身。栗東所属のフリー騎手。98年に栗東・鶴留明雄厩舎からデビュー。同年、トウショウオリオンで北九州記念を制し重賞初勝利。また、最多勝利新人騎手賞にも輝いた。02年、アローキャリーで桜花賞を制しGI初勝利を飾ると、その後もデュランダル(03年スプリンターズS、03年・04年マイルCS)やドリームジャーニー(09年宝塚記念、有馬記念)などでGI勝利を重ねる。11年、ドリームジャーニーの全弟オルフェーヴルで三冠制覇の快挙を果たした。

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