真央と佐藤コーチ、究極の一瞬目指して=トリプルアクセル3本への青写真

野口美恵

維持する事の難しさ 女子のトリプルアクセル

集大成のソチ五輪、トリプルアクセル3本成功へ浅田真央の挑戦は続く 【坂本清】

 浅田真央(中京大)のトリプルアクセルへの挑戦が続いている。GPファイナルでは、いよいよショート1本、フリー2本を跳び、「今できる最高のレベルに挑戦した」と本人も自負する。しかし今季、完全な成功はまだない。トリプルアクセルという大きな頂きに向かって、いま浅田はどこまで登ってきたのか、そして五輪での成功は?

 浅田が鮮烈なデビューを果たした2005年12月のグランプリファイナル。15歳になったばかりの少女は軽々とトリプルアクセルを成功させ、名だたるシニア勢を抑えて優勝した。多くのファンは浅田がまだ跳べなかった時代を見たこともないし、彼女にとってトリプルアクセルは何歳になっても変わらず跳べる“べき”もの、と感じてしまうのも無理ないだろう。そこが、彼女を取り巻く誤解のスタートでもある。

 歴代女子で、公式大会でトリプルアクセルを成功させた選手は、88年に初成功させた伊藤みどり以降、トーニャ・ハーディング(米国)、中野友加里、リュドミラ・ネリディナ(ロシア)、そして浅田の5人のみ。まして数年にわたって成功させたのは伊藤と浅田だけだ。女子にとっては、1度でも成功すれば歴史に刻まれ、成長に伴って維持できるようなジャンプではない。

 それでも浅田は、挑戦を続けた。4年前、19歳のバンクーバー五輪ではショート1本、フリー2本を成功。その後ジャンプ全体のフォーム改造に着手したためトリプルアクセルの改善には時間がかったが、今年2月の四大陸選手権では見事に成功させた。

集大成の今季「何が何でも挑戦」

今季初戦のスケートアメリカからトリプルアクセルに挑戦した浅田だったが成功とはいかず…… 【坂本清】

 そして五輪シーズン、自身が集大成と決めた今季を迎える。浅田は、
「アクセルに惑わされたくはないんですけれど、最初に決まるとやはり自分も乗ってくるし、自分の強みではある」とトリプルアクセルを跳ぶ意義を話し、初戦から挑戦した。

 スケートアメリカでは、ショートでは認定はされたもののフリーレッグがわずかに氷上をかすめたかマイナス評価に、フリーは転倒した。
「やはりシーズン初戦からトリプルアクセルを挑戦出来る状態で試合に臨んでいるのが、跳べなかった時期とは違います。(フリーでは)あれだけ大きく転倒するとリズムも崩れてしまい、『もう失敗したくない』という気持ちがでたのと、スタミナも切れてしまいました。転倒した後をどうカバーするかが今後の課題です」。
と浅田。佐藤コーチも
「今までは、色んな状況を見てマズイなと思ったら『やめなさい』と言った時期もあった。今は結構良い感じにできているので、数少ない競技会でどんどんやらせたいと思っている」
という。昨季までは調子によってトリプルアクセルを回避することもあったが、今季は「何が何でも挑戦」がベースであることを明かした。

 続くNHK杯では、ショート、フリーとも着氷が乱れた。佐藤コーチは
「他のジャンプについてはもっとスピードが欲しいが、トリプルアクセルに関しては彼女の体力に一番合ったスピードでいかないと。練習ではだいぶ固まってきているが、やはり本番になると興奮状態で普段よりスピードがあり、わずかに身体が(左に)フラれてしまう」と冷静に分析した。

 本番でのミスの原因が掴めると自信がついたのか、浅田は守りに入るどころか攻めに出た。
「練習での調子は上がっているし、(フリーで)2本入れても大丈夫なんじゃないかな、と感じるようになりました。もっと上のレベルを練習することは楽しいし、試合で決められたらもっと最高だから」
と考え、NHK杯に“ショート1本、フリー2本”の最高レベルの組み合わせでの練習を開始したのだ。グランプリファイナルまで、練習日数としてはわずか2週間だった。

1/2ページ

著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント