ラグビーワールドカップ日本開催を成功させる鍵とは?
過去にGMとして大会を成功に導いたマット・キャロル氏が、日本で開催されるラグビーワールドカップ2019成功の鍵について語った 【スポーツナビ】
今回のゲストは、ラグビーワールドカップ2019組織委員会のマット・キャロル氏。2003年にオーストラリアで開催されたラグビーワールドカップをジェネラルマネージャー(GM)として成功に導いたキーマンの登場に、会場となった麻布区民センターは満員の賑わいで、エアコンが不要なほど熱気に包まれた。しかし、W杯開催のプロモーションビデオの上映とともに講演が始まると、キャロル氏の一言一句を聞き漏らさないという観客の集中力で、会場は緊張感が漂う。「ラグビー伝統国以外で初めてとなるRWC2019の開催は成功するのだろうか」。日本のラグビーファンなら誰もが不安に感じているこの問いに対し、ラグビージャーナリスト・村上晃一氏の進行のもと、キャロル氏が答えた。
2003年大会を成功に導いた3つの要因
もともとニュージーランドと共催で開催される予定だった2003年大会だったが、2002年初め、ニュージーランドが開催権を返上したことからオーストラリアの単独開催となった。残りわずか18カ月という国際大会としては異例の短い準備期間の中、キャロル氏は準備で重視した点について「会場」「チケット」「参加選手のコンディションの確保」の3点を挙げた。
「オーストラリアには非常に素晴らしい会場があり、チケットに関しては適切な価格設定、販売プロモーションを行うことができました。また、参加20カ国が良いコンディションで素晴らしい試合を見せてくれるよう、いつも選手を中心に据えて準備を進めることができました」
さらにキャロル氏は重要な要素として「ファンの盛り上がり」を挙げて、こう続けた。
「ファンの方々、とりわけラグビーワールドカップは子どもたちのものでもあります。ラグビーが好きな人もそうでない人も、おそろいのユニホームを着て、自分の国を応援するばかりでなく、ゆかりのある国や自分の地域に来た国を応援する光景が2003年には多々見られました。
われわれは、自国開催をするにあたり、ラグビーワールドカップを通して、開催国を盛り上げ、ラグビーを盛り上げることが必要です。ただ、そのためにすべての人がラグビーファンである必要はありません。オーストラリアでも決して全員がラグビーファンではありませんでした。ただ、ラグビーワールドカップの開催を通じて、みんなで盛り上がようという機運を高めることが必要です。2019年には、2003年にオーストラリアで見られたような光景を、日本で見るため、準備を進めなければならないでしょう」
2003年大会は48試合で189万枚のチケットを販売し「成功」と位置づけられ終了した。大会の盛り上がりは会場に人が集まって実現するもの。オーストラリアではどんな施策を行ったのか。村上氏が追求すると、キャロル氏は具体的な施策を明かしてくれた。
「ラグビーの根付いていないタスマニアでは、会場3万人のほとんどが生でラグビーを観戦していない人たちでした。そこで、誕生日の奇数や偶数で応援する国を分けたり、子どもたちには学校ごとに応援する国を振り分けたりしました。チームを応援して勝利するプロセスを経験してもらうことで、ラグビーを観戦しようという機運を高めました」
盛り上げの機運が重要……ファンゾーンにも注目
「大学ラグビーではたくさんの人が集まる、これは日本ラグビーにとって強みのひとつです。さらにトップリーグでは世界的な企業がたくさん出資している。これは世界的に見たらユニークなことで、これらの良い材料をうまくひとつにしていけば、今後数年間でさらに日本ラグビーが栄えると思います」
また、「ファンゾーン」の存在も注目だという。ファンゾーンは、お祭り的な雰囲気でファン同士が交流したり楽しんだりできる会場のこと。ラグビーワールドカップ期間中は各開催都市にファンゾーンが設けられ、パブリックビューイングやお酒を飲んだり、各国のファンとコミュニケーションを図ることなどができる場となる。このファンゾーンによって、ラグビーワールドカップならではの雰囲気を町全体に作り出し、機運の高まりにもつながっていく。「みんなで集まって雰囲気を味わいながら、いっしょになって観戦することで、盛り上がりにつながるでしょう」。