「若い仲間を絶対ソチへ」 カーリング女子、決意で掴んだ五輪切符

高野祐太

勝利呼んだ“カーリングの文脈力”

五輪を決め、コーチ陣と笑顔で喜ぶ(左2人目から)船山、小笠原、小野寺、苫米地、吉田 【原田亮太】

 強豪・中国を含む7カ国の中で2位以内に入らなければならなかった今大会。北海道銀行のプレーをざっと振り返ってみる。予選が始まってからしばらくは、なかなかショットが決まらない試合が続いた。だが、相手のミスなども利用しながら星は落とすことなく、次第にリズムをつかんで行く。強豪ドイツも大差で破った。中国には結局、予選とプレーオフの2戦で勝てず、11月のパシフィックアジア選手権からの対戦成績が5戦全敗となってしまった。だが、最後の五輪切符1枚を懸けたノルウェー戦は、5エンドに1点スチールしてから主導権を握って完勝だった。
 課題を挙げるなら、個々のショットをまだまだ精度を上げる余地があった。カムアラウンド(ガードの石を回り込む)してもベストの位置に置けなかったり、フリーズ(相手の石にピタリと付ける)が甘かったり。それは相手の次のショットが完璧なら、スキに付け込まれるショットになっていた。

 だが、北海道銀行は最後の最後にソチ切符を勝ち取ることができた。要所要所で決められたり、巧みな戦術が功を奏した。勝利に向かう強固な精神力も強力な推進力として働いた。小笠原は「必ずソチへ」と語った自らの言葉に押しつぶされることなく、現実のものにしてしまった。敦賀さんは「経験からくる粘り強さ、勝負強さ」と、テレビで勝因を分析した。
 このあたりに、このチームの底知れぬ興味深さがある。筆者は9月の日本代表決定戦を受けた本コラムで“小笠原マジック”と書いたが、そのようなプレーが今大会でもソチ切符の決め手となったのだろうか。“カーリングの文脈力”に優れていた、と言い換えてもいいかもしれない。

 競技特性を考えると、カーリングはライン(コース)によっても異なるというほどに、時々刻々変化する氷の状況下で戦うため、チェスでコマを置くのとは違って、頭の中の作戦通りにはいかないという側面がある。外部環境要因がショットの精度に大きく作用するのであり、相手がミスに陥りやすい文脈に持っていく、氷の状態や調子や心理を見て仲間に決めやすいショットを投げさせる、ときには無理をしない――という判断がモノを言う。百戦錬磨の小笠原には、また、小笠原を補佐する船山には、そういうゲームの文脈を上手に泳ぎ渡るセンスが備わっているのかもしれない。あとは、ベテランらしいタフな精神力だ。

暴れ馬!?小笠原、温和な船山のコンビ

 石崎さんが興味深い指摘をしていた。
「歩ちゃんって、やるって決めたことは絶対にやるんです。他人にも厳しいと思うんですけど(笑)。でも、自分にもとっても厳しくて、厳しく言われてもチームメートが付いて行くのはやっぱり自分がやっているからだと思う。口ではああ言っても、人一倍、他人のことを考えているし、いろんなこと考えているし。そういった意味で心が強い。本当に心が強いという感じがします。内に秘めた自信とか、大きな舞台で発揮できる集中力と自信がすごいと思います」

 加えて言及したのが、ジュニア時代から苦楽をともにし、引退も結婚と出産も示し合わせたようにほぼ同時だった船山という存在の大きさだ。
「それに大事なのが、いつでも変わらない弓枝ちゃんという女房役がいること。性格的なものかもしれないけど、歩ちゃんがボンって厳しいことを言っても気にしているんだか気にしていないんだか、あんまりよく分からない(笑)。それがすごく良い。どんな状況になっても、気持ち的に一定でいてくれるというのは、一緒にいる立場からしたらすごく安心できるんじゃないかなと思うんですよね。(暴れ馬を乗りこなせる?)うふふふ。うん。暴れる方も多分いろいろ考えて暴れているでしょうけど、それもああいう温和なサードがいてこそだと思うんです」

 こうして見てくると、来年2月の大舞台で、どんなパフォーマンスを見せてくれ、どんな感動を日本に届けてくれるのか、ファンとしては楽しみがますます高まってくる。だが、だからこそ、課題から目を背けてはならない。繰り返しにもなるが、もっとショット成功率を向上させる必要があることは間違いない。五輪本番ではさらにレベルの高い相手と対峙(たいじ)しなければならないのだから。とは言え、その差はわずかであり、この魅力的なチームなら残り期間でブラッシュアップしてくれるに違いない。その姿を楽しみに待とう。

<了>

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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