岩隈、川崎、青木が探し求めるもの――メジャー流を身につけ、さらなる進化へ

中島大輔

メジャー流への変化は結果を残すための必然

「ほとんどメジャー流になった」という岩隈は、日本時代に比べツーシームを多投するようになった 【写真は共同】

 メジャーリーグで長きに渡って成功している日本人選手を見渡すと、共通する傾向が浮かび上がってくる。海を渡って以降、良い意味でプレースタイルがメジャー流に染まっているのだ。
 例えば、イチローは代名詞だった振り子打法をやめて、打撃フォームを年ごとにアップデートしながらメジャー屈指のヒットメーカーとなった。黒田博樹はフォーシームを封印し、シンカーやカットボールという“動くボール”を多投して勝ち星を積み上げている。
 ふたりにとって、そうした変化は結果を残すための必然だった。
「僕はほとんどメジャー流になっています」
 そう話すのが、シアトル・マリナーズの岩隈久志だ。メジャー2年目の今季は開幕から先発ローテーションを守り、リーグ3位の219.2回に登板して14勝6敗、防御率2.66と抜群の成績を残した。サイ・ヤング賞の投票ではマックス・シャーザー(デトロイト・タイガース)、ダルビッシュ有(テキサス・レンジャーズ)に次ぐ3位に選出されている。
 12年にマリナーズへ移籍して以降の岩隈は、ツーシームを使う頻度が圧倒的に増えた。日本では右打者の内角を突いて仕留める意味合いのボールだったが、メジャーでは右打者の外角からストライクゾーンに動かし、カウントを稼ぐ球種としても使っている。

「外から入れるツーシームは、日本では使っていなかったボールですね。フォーシームばかりを投げていくのは、怖い気持ちもあって」

 メジャー1年目はまず中継ぎの役割を与えられ、デビュー戦となった4月20日のシカゴ・ホワイトソックス戦からの4試合で3本の本塁打を打たれた。相手打者のパワーを体感し、「甘くなったらやられる」という感覚を体と頭に刻み込んでいく。以降、中継ぎで結果を出すとシーズン後半から先発に配置転換され、16試合で8勝4敗の好成績を残した。その中で、「何となくつかんだものがあった」という。それこそが、今季飛躍を遂げた要因だ。

岩隈が今季飛躍を遂げた要因

メジャー流の調整方法に変えた岩隈は、球速アップという思わぬ収穫を得たという 【スポーツナビ】

「相手の特徴が分かってきて、自分の投げるボールをコントロールしながらバッターに考えさせるようなピッチングをできるようになりました。例えばフォークを落とした後に高めのフォーシームを投げて、反応を見ながらうまく攻めていく。その後はフォークだけではなく、カーブを投げたり、ストレートを混ぜたり。今年はそうした余裕が出てきた1年でしたね」

 岩隈が投げるフォーシームの球速は、日本にいた頃よりコンスタントにスピードが出るようになった。その理由も、メジャー流に染まってきたことにある。
 日本では調整の中心にランニングがあったが、メジャーの投手があまり走らない姿を見て、岩隈も「環境に合わせよう」と米国式を取り入れた。その分、ウエイトトレーニングや肩のインナーマッスル、体幹を鍛える時間にあて、それが球速アップにつながった。「郷に入っては郷に従え」という考え方で、思わぬ収穫を得たのだ。

 日米の調整の違いでは、登板間隔の差も大きい。日本では中6日で先発してきたが、メジャーでは中4日でマウンドに上がる。当然投げない日の過ごし方も変わり、米国では「ゆっくり過ごして、早く回復させることを意識している」という。
 岩隈は「中4日のほうが楽かな」と言うが、その考え方が実に合理的だ。
「日本ではきちんと休みを取って、登板日では先発完投を求められます。評価されるのは勝ち星だと思うんですね。一方、米国ではケガせず、先発した試合で7イニングを投げることが評価につながります。日米の価値観の違いですが、僕は米国の方が変なストレスがたまらない。中4日で投げながら、100球という球数でいかにゲームプランを立てて、少ない球数でアウトに取っていくかと考えられるので、疲れもたまりません」

 そういった過ごし方を2年間するうち、岩隈はさまざまな収穫を手にした。
「メジャーは年間162試合で休みも少ないけど、うまく体を動かしながらやっていく中で、いろいろなものを見つけ出せます。それに、日本ではベンチで野球を見ることがなかったですからね。ベンチから見るといろいろ考えるし、みんなで戦っている感覚もある。『これが野球だよな』って思いましたね。そうやって経験した中で、覚えた感覚がたくさんある。それを今シーズンの1年間通じてやれたので、来年も自信を持ってやっていきたい」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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