育てる徳島、成長でつかんだJ1昇格=前半戦15位から驚異の巻き返し

川端暁彦

徳島完勝、余裕があったから生まれた得点

3度目のJ1昇格を決めた小林監督(中央)は、育成出身らしい“育てて戦う”指導法でチームを成長させた 【写真:アフロスポーツ】

 巻き返した成果としてプレーオフに臨んだ徳島に対し、「2位になれなかった」「また3位になってしまった」という思いを抱かざるを得なかった京都。この差も、あるいはゲーム内容に出ていたのかもしれない。総じて言えば、徳島の完勝に近かった。いつも通りに守備から入った徳島は、相手の攻勢をしのぎながら機をうかがう。「FWドウグラスを先発させる手もあったが、点を取れなかった場合やビハインドになったときのために残しておいた」という長島コーチの言葉から見えるのは、前半は0−0でも構わないという徳島側の割り切り、精神的余力だ。結局、セットプレーとカウンターによる少ないチャンスをDF千代反田充とFW津田知宏が決めて前半のうちに徳島が2点を奪うのだが、0点でもいいという余裕があったからこそ生まれた得点に思えた。

 逆に、京都は余裕がなくなった。機があるとすれば、後半開始早々の時間帯だったが、ここも徳島は分かっていた。長島コーチは「僕や伸二さん(小林伸二監督)が何か言う前から、『立ち上がり15分だぞ! 分かってんな!』という声が選手から出ていた」と言う。徳島は後半早々から強烈なプレッシングと、そこからの反転攻勢を連発。京都の勝機を削り取った。さらにベンチも強気だった。その15分が終わるタイミングの後半13分にドウグラスを最初の交代カードに選択。「守りに入るのはまだ早い」とのメッセージを伝える。そして同22分には左サイドバックに那須川将大、同30分に守備的MFの斉藤大介を投入し、ここからは「さあ、逃げ切るぞ」とのオーダーが明確に共有された。スコアが動かぬのも必然と思える流れのまま、試合は終了。徳島が初めてのJ1昇格を決めた。

 史上初となる3度目のJ1昇格を決めた小林監督。一方、僕が真っ先に話を聞きたいと思ってミックスゾーンでつかまえた長島コーチも、コーチとして3度目の昇格という珍しい経歴を積み上げたことになる(山形、FC東京、徳島)。FC東京を離れて山形時代に続く小林監督の「副官」としてオファーを受けたことは大いに迷ったというが、結局は快諾。徳島の前身・大塚FC時代にもコーチとして過ごした経験を持つ場所で、「伸二さんのために」コーチとしてのすべてを出し切るシーズンとなった。「僕も伸二さんも育成(年代指導)出身の指導者だから」と語ったように、「昨日できたことが今日できない。それを当たり前と思って我慢強く、選手個々のウイークポイントをうまく伝えながら、前向きにとらえさせるような」指導を実践。前半戦15位となっても、選手を育てながら戦うという軸はブレることなく、後半戦での巻き返しにつなげた。

成長の実感があれば選手は頑張れる

 特に長島コーチが重視したのは試合に出られない選手のケアだ。それこそがチームとしての成長と、その先にある戦績にもつながるということを経験的に知っているからでもある。「自分が伸びているという実感があれば、(出ていない選手でも)やっていけるもの。僕の仕事は“伸びている自分に気づいてもらう”ことだけ。あとは全部選手が頑張ったことだから」と語るが、実際はそう簡単なことではあるまい。だが、それをやったからこそ、徳島は強くなった。

 試合に出ていた選手にも、そうした粘り強い指導は届いている。この試合でサイドプレーヤーとして攻守に奮闘した22歳のMF大崎淳矢は「こんなに成長したと思えるシーズンは初めて」と語る。「以前は攻撃のときは攻撃だけ、守備のときは守備だけという感じだったけれど、伸二さんたちに言われまくって、今は両方やるというのが何か自然にできるようになった」と笑顔で語った。

 成長の実感があれば選手は頑張れるもの。まさにそれを体現するような驚異的な巻き返しを見せた徳島が、悲願のJ1昇格切符を手にした。早くも大型補強のウワサが聞こえ始めているが、闇雲に集めるという形にはなるまい。小林監督と長島コーチのゴールデンコンビが健在であれば、チームのベースはあくまで「粘り強く向き合えば、選手は伸びるもの」という育成の発想だ。来季は徳島のJ1での戦いと、そして「J1での成長」を楽しみにしたい。

<了>

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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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