織田信成、笑顔が引き寄せた大きな幸運

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急きょ決まったファイナル出場

高橋のケガによって繰り上げ出場となったGPファイナルで見事3位表彰台に上った織田 【坂本清】

 12月5日に開幕したフィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルに、織田信成(関西大学大学院)の出場が決まったのは1週間前の11月28日だった。負傷した高橋大輔(関西大学大学院)が欠場することになり、GPシリーズのポイントで7位だった織田にお鉢が回ってきたためだ。「ISU(国際スケート連盟)の方から、『補欠の1番手だから12月1日までは準備をしておいてください』と言われていたので、きちんと練習はしていました。自分のなかでも問題ないと思っています。本来出られる大会ではなかったんですけど、出られることになったので精いっぱい頑張りたいです」。前日会見でそう語った織田だが、「全日本選手権(12月21日〜23日)に向けて調整していた」とも明かしていたように、肉体面・精神面ともに不安視されるのは仕方なかった。

 ソチ五輪の出場権争いにおいて、GPファイナルでの成績は重要な基準ともなるが、今回に限っては、全日本選手権での結果が最も重視される。もちろん日本人最上位となり、メダルを獲得すれば、出場権争いで優位に立てる。しかし、こうした大舞台でのミスはとかく印象に残るもの。また、のしかかるプレッシャーも大きいため、それだけ疲弊してしまう。ここでコンディションを崩してしまうと、間近に迫った大一番に影響が残ってしまう可能性も十分にあった。そういう意味ではリスクを伴う一戦とも言えなくなかった。

 だが、織田はこの“賭け”に見事勝った。羽生結弦(ANA)、パトリック・チャン(カナダ)に次ぐ3位に入ったのだ。

 初日のショートプログラム(SP)では冒頭の4回転トゥループで転倒するなど、80.94点と平凡な得点に終わった。織田も「緊張で足が震えました。1番滑走ということで力が入ってしまいましたね。あんまり演技としては良くなかったので、気持ちを切り替えたいです」と語るなど、不満が残る出来だった。それでもほかの選手が軒並み得点を稼げず、3位につけたのは幸運だった。

今季のテーマは「笑顔」

フリーの演技、織田は実に楽しそうに氷上を舞い、観客を、自身を『笑顔』にした 【坂本清】

 迎えた2日目のフリースケーティング(FS)。『ウィリアム・テル序曲』の曲調に合わせて滑り出した織田は、冒頭の4回転トゥループこそ転倒したものの、続く4回転トゥループ+3回転トゥループは見事に決める。これで波に乗ると、その後もコンビネーションジャンプを成功させ、明るい曲調に転じた最後は場内の歓声や手拍子と一体になりながら笑顔で演技を終了した。FSの得点は175.02点と自己ベストに迫るハイスコア。この時点で表彰台入りを確定させた。

「最初は緊張があったんですけど、昨日と同じで失敗して目が覚めたというか。今度は転倒でスイッチを入れるんじゃなくて、最初から入れたいなと思います。(コーチである)母が『思い切り楽しんできなさい』と声をかけてくれたので、どれだけジャンプを失敗しようと楽しめたらいいかなという気持ちでいけたのが良かったと思います」

 よほど自身の演技に納得がいったのだろう。前日とは打って変わり終始興奮した面持ちで取材に応じていた。

 それにしても今季の織田は実に楽しそうにリンクの上を舞っている。とにかく笑みを絶やさないのだ。それもそのはずで、織田の今シーズンのテーマはまさに『笑顔』。「現役最後のシーズンなのでしんみり終わりたくないと思ったんです」。このテーマに決めた理由を織田はそう説明する。人を笑わすことが好きな織田にとっては、まさにぴったりのテーマと言えそうだ。

 余談だが、織田がミックスゾーンで取材を受けているときは、必ずと言っていいほど笑いが起きる。今大会でもSP後は流行語大賞に輝いた「いつやるの? 今でしょ!」というネタを使い笑いを取ると、FS後には「家に帰ったら何をしたいですか?」という質問に対し、「ハイチュウが食べたい」と話し、報道陣を爆笑(?)させた。「大阪人としてのプライドがありますから」。織田は日ごろから一緒にいる人を楽しませようと意識しているそうだ。

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