浅田真央が続ける自分に対する挑戦

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トリプルアクセルにはリスクがつきまとう

序盤の転倒はリスクでもある。それでも確固たる基礎力が浅田を支える 【写真:ロイター/アフロ】

 今季初戦となるジャパンオープンでは「ジャンプをどうするかといったことは気にしていなくて、プログラム全体を考えています」と語っていた浅田だが、シーズンが深まるにつれて、やはりトリプルアクセルについての話題が中心となりつつある。裏を返せば、それだけその他の部分で隙が見当たらないということだろう。課題に挙げていたスピンやステップはほとんどの試合でレベル4を獲得。トリプルアクセル以外のジャンプもほぼノーミスに近い。より上を目指すのであれば、難度の高いエレメントに挑戦するのは当然のことだ。

 それに加え、現状では浅田と同レベルで争える選手がいないことも、さまざまなチャレンジを行ううえでプラスに働いている。今季出場した3試合(ジャパンオープンを除く)はいずれも2位の選手に10点以上の差をつけて優勝するなど、いまや敵なしの状態。GPファイナル2位のリプニツカヤ、3位のアシュリー・ワグナー(米国)は共に「世界で一番強い」と浅田を称している。

 トリプルアクセルにはつねにリスクがつきまとう。転倒する可能性も高く、大技であるだけに体力も消耗しやすいからだ。僅差の勝負であれば、なかなか挑戦しにくい部分もあるだろう。しかし現在はその心配がないだけに思い切ったチャレンジができる。もちろんそれも、スケーティング技術などの基礎をしっかり磨きあげてきたこの3年間の成果が、実となって表れているからでもある。

 浅田もその効果を実感している。
「基礎から見直してきて、いまようやくその基礎が身についてきました。一からやるというのは本当に大変なことで、やっている最中にこれで大丈夫か、これで合っているのかなとやってきて、いまでも完璧ではないので、時には悩むこともあります。ただ、その失敗を考えて修正できるようになってきているので、やってきて良かったと思います」

挑戦する勇気を失わなかった

演技後、観客からは大歓声。挑戦する姿勢が、浅田の力であり魅力なのかもしれない 【写真:ロイター/アフロ】

 今季限りでの引退を表明している浅田にとっては、出場する大会すべてがラストになる。初出場した05年のGPファイナルでいきなり優勝を飾ったのは15歳のとき。当時は最年少だったが、あれから8年が経過した今大会では最年長の選手として再び頂点に立った。「早いですよね」と浅田は笑ったが、長きに渡りこうして第一線で活躍できたのは、“挑戦する勇気”を失わなかったからだろう。先に述べたように、トリプルアクセルにはリスクが伴う。成長による体格の変化で、以前のように跳べなくなったときでも、浅田は決して自身最大の武器を捨てなかった。ワグナーは「女性のスケーターでトリプルアクセルをやるんだと言う選手は、それだけで尊敬できる選手だと思う」と、浅田への称賛を惜しまない。

 佐藤コーチもその難しさを知りながら、浅田の挑戦を見守っている。
「トリプルアクセルは素晴らしいジャンプだし、本人のなかではどうしても挑戦したいという気持ちがある。それを取り上げるようなことは僕にはできない。彼女のテンションにも影響してくるので、そのへんのバランスを考えて、挑戦できる方向に持っていきたい。女性にとって、(トリプルアクセルを跳ぶことは)とんでもなく能力的に難しいということを痛感させられているんですけど、練習ではできていますし、もう少し頑張ってなんとか彼女の夢をかなえられたらいいなと思っています」

 GPファイナルで優勝したこともあり、浅田のソチ五輪出場はよほどのことがない限りほぼ当確だろう。残る試合は全日本選手権などわずかだが、ひとつひとつの実戦を大切にしていくつもりだ。「自分に対してのチャレンジをしていきたい」。浅田の意欲は衰えるどころか、ますます燃え上っている。

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)

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