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真央、着々と高める完成度 フリーも期待
GPファイナル女子SP解説
澤田亜紀さんは、浅田のSPの演技について、まだまだ得点が伸びる要素があると指摘。フリーへ向けても「楽しみ」と期待感を語ってくれた
澤田亜紀さんは、浅田のSPの演技について、まだまだ得点が伸びる要素があると指摘。フリーへ向けても「楽しみ」と期待感を語ってくれた【坂本清】

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)ファイナルが5日、福岡マリンメッセで開幕し、女子ショートプログラム(SP)では、日本女子唯一の出場となった浅田真央(中京大)が72.36点でトップに立った。

 浅田は冒頭のトリプルアクセルが回転不足の判定。それでも「私自身すごく良い感じで跳べています」と話すなど好感触を得た様子で、GPファイナル2連覇へ好スタートを切った。


 スポーツナビでは、5つの3回転など力強いジャンプや氷上での明るい笑顔が持ち味で、2007年四大陸選手権、04年全日本選手権で4位に入るなどの成績を残した澤田亜紀さんに、女子SPを解説してもらった。回転不足となった浅田のトリプルアクセルの出来は? プログラム曲『ノクターン』で光る、浅田の滑りの良さとは?

回転不足も力あるトリプルアクセル

 浅田選手のトリプルアクセルですが、回転不足にはなりましたが、踏切時につま先まで力が伝わり、着氷後もスピードがあるジャンプでした。

 また、後半の3回転ループ−2回転ループの2連続ジャンプも非常にスピードに乗りながら、跳べていた思います。後ろの2つ目のジャンプがちょっと危なかったかなと思いましたが、それでもきれいに跳んでいました。その辺は評価につながったのではないかと思います。


 コンビネーションジャンプ(連続ジャンプ)の1つ目を跳ぶ時には、後に続く2つ目のジャンプのことを考えて、ジャンプの“幅”を意識して跳ぶんです。高さを意識してしまうと、着氷で詰まってしまい次にうまくつなげないのですが、跳んだ距離感、“幅”を意識すると2つのジャンプが流れるようにつながります。今回の浅田選手は、その“幅”もありましたが高さもあったので、それで詰まったように見えたのかもしれません。


 また、スピンでは3つ目の要素のチェンジフットコンビネーションスピンがレベル3の判定でした(編集部注:今季出場したGP2大会では、最高のレベル4を獲得)。浅田選手のように、普段レベル4を取っている項目でレベル3を取るときは明らかなミスがある事が多いのですが、今回は見た目にはほとんど分かりにくいですね。もしかすると体をひねりきれていなかったとかがあったのかもしれません。それでもスピンも他の選手とは違ったスピードでした。


(演技構成の)ジャッジスコアを見ても、ひとりだけ9点台が出ています。2位以下の選手との得点差がいつもよりも詰まっているので(首位・浅田と2位ソトニコワは3.98点差)、点差が伸びなかった印象もあるかもしれないのですが、実際はしっかり得点を取っていると思います。

滑りで音を奏でるような『ノクターン』

 浅田選手と他の選手の違いは、やはりSPの2分50秒をあっという間に流れるように演じるところだと思います。他の選手は、ジャンプなどの要素と滑りが途切れ途切れになってしまったりするのですが、浅田選手の演技は全体がひとつ。それでいて、曲の強弱の表現もしっかりあって、間の取り方も良い。今回のプログラム曲はピアノでの『ノクターン』ですが、音がピアノしかないのに、他の音も聞こえてくるような気持ちにさえなります。『ノクターン』のような静かな曲は、滑る際のエッジの音が響いてしまう事があるんです。でも浅田選手の場合は、エッジを倒すだけでスピードに乗っていくようなスケーティングなので、静かな曲で滑ってもエッジの音はあまり目立たない。その滑りは練習して身に付けるもので、男子の小塚崇彦選手や佐藤信夫コーチのもとで習っている選手たちはみなさん上手です。ただ練習でできるだけでなく、それを試合のプログラムの中で意識して滑れるところがすごいですね。


 浅田選手は今回のファイナルで、ソチ五輪よりまずは全日本(五輪代表選考会、12月21日開幕)を見ていると思います。今回レベル4を取れなかったスピンや、回転不足だったトリプルアクセルが決まればさらにスコアは伸びますし、着々とプログラムの完成度を上げているなと思います。

 大会の直前にはフリーで2本のトリプルアクセルに挑む事も話していましたし、2本入れた試合は最近はないと思うので、どこまで仕上げてきているのかが楽しみです。

全員ノーミスの演技に期待

 浅田選手以外の選手たちも、(6位だった)アンナ・ポゴリラヤ選手(ロシア)のダブルアクセルが半回転でノーバリュー(判定なし)になったくらいで、みんなすごく良かったです。出場した6人ともすごく音の強弱を体全体で表現していました。

 特にアシュリー・ワグナー選手(米国)は、“幅”もあって、迫力もある演技をしていました。審判前など要所要所での目力でのアピールも、目線が“バチバチ”と迫ってきて印象的でした。やはり人がジャッジする競技ですから、そういった人を引き付ける要素も大事です。

 もちろん、プログラムもジャッジの位置を意識して組んでいます。私もそうだったんですが、自信のあるジャンプはジャッジの前や近い席で跳んだりします。浅田選手がフリーで2本のトリプルアクセルに挑戦するとしたら、1つはジャッジの前で、1つは観客席の前に持ってくるのではないかと思います。


 それから、2位に入ったアデリナ・ソトニコワ選手(ロシア)は、スピードも高さもあるジャンプをしていました。伸び伸びと滑れていた印象です。ワグナー選手のジャンプもスピードと高さがあるのですが、そのあたりで、他の選手との差が出てくるんだと思います。

 4位スタートとなったユリア・リプニツカヤ選手(GPシリーズ2大会で優勝の15歳、ロシア)は、助走が短くてすごく良いジャンプをします。(スピンなどで)柔軟性もしっかりアピールできていました。


 浅田選手はトリプルアクセルもありますし、このままいけば(トップを)キープできると思います。それでも他の選手も、全員3回転−3回転を跳べるので、誰が勝つか本当に分かりません。全員がノーミスの試合を見てみたいと思いますね。


<了>

澤田亜紀/Aki Sawada

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では優勝1回を含め、6度表彰台に立った。シニアでは2004年全日本選手権で、安藤美姫、浅田真央、村主章枝に次ぐ4位に入り、07年四大陸選手権でも4位の成績を残した。5つの3回転ジャンプを跳ぶなど力強いジャンプが持ち味。トレードマークとも言える、氷上での明るい笑顔も人気を呼んだ。11年に現役の第一線を退き、現在は関大を拠点にコーチとして活動している。

構成:スポーツナビ