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「高橋大輔という偉大な存在を超えたい」
フィギュア町田樹インタビュー・後編
これまでの憧れからライバルへ。町田(右)がソチ五輪に出場するためには高橋(左)という大きな壁を超える必要がある
これまでの憧れからライバルへ。町田(右)がソチ五輪に出場するためには高橋(左)という大きな壁を超える必要がある【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 町田樹(関西大学)が今季、一気に飛躍した要因として挙げられるのが「コンパルソリー」と呼ばれる、氷上を滑走して決められた図形を描く練習を取り入れたことだ。町田によれば、この練習に取り組んだことで、ジャンプを跳ぶ際の細かなポイントが明確になったのだという。いまでは「憧れ」だった高橋大輔(関西大学大学院)と五輪の出場権を争うまでになった。「ソチ五輪を目指すのであれば、高橋大輔という偉大な存在を超えていかなければいけない」と、町田もライバル心を隠さない。


 五輪まであと約2カ月。全日本選手権(12月21日〜23日)が代表選考の場となるが、それに臨むにあたり町田はどのような覚悟を持っているのか。そして出場権を獲得できたらどんな思いで五輪に臨むのか。町田がその胸の内を語った。

いまは高橋選手をライバルとして見ている

2011年からリュウコーチ(右)に師事。町田も「兄貴的な存在」として信頼を寄せる
2011年からリュウコーチ(右)に師事。町田も「兄貴的な存在」として信頼を寄せる【坂本清】

――町田選手は高橋大輔選手に憧れて高校、大学と同じ道を歩んできています。いま、その高橋選手と五輪を争う立場になりました


 高橋選手は日本フィギュアスケート界にとって、パイオニア的な存在だし、僕にとっても先駆者であって、偉大な先輩であり、尊敬しています。しかし、やはりソチ五輪を目指すのであれば、高橋大輔という偉大な存在を超えていかなければいけない。いまは、ライバルとして見ています。


――高橋選手に初めて勝ったときはどのような気持ちでしたか?


 去年の中国杯だったんですけど、僕も決して良い演技ではなかったし、高橋選手も調子が良くなかったようなので、たまたま勝ったという感じなんですね。だから、勝ったという実感もなかったし、100パーセント運で勝ったという印象なので、何も思うところはありませんでした。今年のスケートアメリカも、やはり高橋選手、小塚(崇彦)選手(トヨタ自動車)は不本意な結果だったと思うんですね。そのなかで僕がたまたま成功して上に行ってしまった。でもやっと点数的にも、能力的にも、対等ではないにしろ、しのぎを削るような戦いができるくらいには、上げられたと思うので、同じステージで戦えるんじゃないかなという思いはあります。全日本選手権という場所で勝ったときに、本当に勝ったと思えるんじゃないでしょうか。でも理想は、尊敬する高橋選手と一緒に五輪へ行くことです。


――アンソニー・リュウ氏に2011年から師事しています。今年からは大西勝敬コーチに指導を受けていますが、秦安曇コーチも含め3人は町田選手にとってどういう存在ですか?


 アンソニー・リュウは、選手として五輪に2度出場していて、豊富な経験を持っています。一流選手としての精神や経験を僕に伝承してくださっているので、兄貴的な存在ですね。大西先生は、佐藤信夫先生という偉大な方の門下生として、その精神を受け継いでいるので、僕にとっても偉大な方です。新しい考えや、コンパルソリーを含めてさまざまなメソッドを僕に教えてくださり、普段も優しく接してくださるので、父親的な存在です。秦コーチは、小さいころからお世話になっていて、僕の一番の理解者だと思っています。僕の考えを尊重しつつ、いろいろなことに協力してくださっているので、母親的な存在ですね。良いチームだと思っています。


――コンパルソリーを練習に取り入れることを発案したのは?


 大西先生です。僕は去年のGPファイナルと全日本選手権で大敗して、僕には何が足りないのか、今後どういう道のりを歩んでいけば良いのかということをオフシーズンに考えたときに、「基礎だな」と。スケートを滑るという原点回帰に立ち返ろうというところから、大西先生の門をたたきました。そこでコンパルソリーをやろうという話になったんです。

コンパルソリーとは「瞑想」

コンパルソリーを練習に取り入れたことで自分の体に対して敏感になったという。そのイメージを身振り手振りで具体的に説明してくれた
コンパルソリーを練習に取り入れたことで自分の体に対して敏感になったという。そのイメージを身振り手振りで具体的に説明してくれた【スポーツナビ】

――言い方は悪いんですけど、単調な練習の繰り返しだと思うんですね。もう少しこの練習をやりたいなと思うことはなかったのですか?


 単純では全くないんですけど、コンパルソリーはおっしゃる通り単調です(笑)。地味な、華やかじゃない練習を、朝の寒いときに、眠たさを我慢しつつやっているんです(笑)。ただ、コンパルソリーとはフィギュアスケートにおける「瞑想」だと僕は思っています。コンパルソリーは、本当に1点に乗らないと、エッジとか正しいターンとかを描けないので、試行錯誤をしながら、そういうできない苦しみと戦っていくうちに、自分との対話ができるようになってくるんですね。


――瞑想というのは?


 考え方としては、自分の皮膚を全部剥いで、理科室にあるような人体模型を考えるんです。筋肉がこう動いたら、ここがロックされるとか、筋肉を動かして足を運ぶことによって、このターンがうまく描けるとか、エッジにうまく乗れるといったことですね。それができ始めて、どんどんやっていくうちに、今度は筋肉や内臓を全部取りはらって、骸骨模型のイメージになるんです。関節を動かし、足を運んでくることによって、こうターンを描けるし、逆に違うイメージで関節を動かしたらバランスが崩れるな、といったことを考える。それができ始めると、自分の心との対話になる。時には無心でやることもあれば、試合が2週間後にあって「いま体はきつい、だけど2週間後の試合を想定して、これくらいのクオリティーの練習やプログラムをこなさなければダメだよな」という対話だったり。こうしたことを朝にこなすわけです。


――コンパルソリーをやることによって、瞑想をしながらご自身と対話することも増えたわけですね


 そうですね。夜には普通の練習をするんですけど、そのときにコンパルソリーの精神が移っていると感じるんです。ジャンプで失敗したときには、なぜ失敗したのか。「この筋肉をこう動かしたら絶対に飛べる」とか、自分に対してとても敏感になったというか、自分の体にたくさんセンサーが備わったようなイメージです。以前は、例えばエッジがあったとして、つまさきはどの部分も変わらなかった。でもいまはセンサーが多く備わったので、少しずれたら明確に違うと分かるんです。だからエッジに乗るときも細かく乗れますし、自分がどこに乗っているか細かく分析できます。4回転ジャンプを飛ぶときも、ここのエッジに乗せればピンポイントで絶対に飛べるという箇所を見つけたりして、スケート靴と自分が一体化したような感じですね。


――いままでそういう感覚はなかったんですか?


 なかったですね。つまさきならどこも一緒という感じでした。それがどんどん細かいセンサーに区別されたというか、自分の体に対して敏感になり、分析できるようになった。なおかつ自分のマインドもうまくコントロールできるようになったのかなと思います。


――このような練習を取り入れたのは初めてですか?


 そうですね。コンパルソリーを本格的にやるのは初めてだったので、まさかここまでいろいろなことに応用がきくとは思わなかったです。

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