箱根駅伝人気の影で――関西学生長距離界が直面する現実

折山淑美

「関東の学生ランナーに勝つ」という気持ちを

岐阜経済大の揖斐祐治監督(写真手前)ら若手監督の就任は、地方の学生長距離界復活の起爆剤となるか 【写真は共同】

 こう言って目を細める鶴谷監督は、報徳学園高を卒業して大阪経済大に入った選手から「練習を見てほしい」と頼まれたのをキッカケに、同校の長距離を指導するようになったという。最初は手弁当でのコーチングだったが、2年目からは嘱託職員となった。
「最近では関西学連のマネージャーをやっている学生が、福島の100キロマラソンに出て優勝しました。それにレギュラーでない選手でも、5人ほどフルマラソンを走っている。競歩も1人だけいて、9月の全日本インカレで10位になった。そういうことがチームを盛り上げてくれています」

 11月の全日本大学駅伝は、関西勢4番手の17位。区間20位台と振るわない選手も2人おり、丹後大学駅伝(11月24日)のメンバー選考会は、その2人を含めた10人ほどで行う。鶴谷監督は、それを楽しみにしているという。

 関西でも名門校を見れば、ポツンポツンと強い選手も入ってきている。報徳学園高から京都大へ進学した2年の平井健太郎もその1人だ。高3の時は、受験勉強もあって低迷したが、今は思い切り陸上に打ち込めるようになり、この秋には1万メートルで有力ランナーの目安となる28分台を出した。鶴谷監督は、そういう選手たちが「関東の大学の選手に勝とうという気持ちでやれば、それに刺激を受ける選手も増えてくるだろう」と言う。

「関西の学生長距離を盛り上げるためには、『やってやる!』というモチベーションを持つような個人を育てなければダメですよね。そのためには、後ろについて走るのではなく、オーバーペースになっても積極的に走れるようにならなければいけない。全日本大学駅伝の前に他大学も集めて行った練習会では、そういうレースをさせました。『せこいレースをするな』と言ってね。そうしたら、立命館大の1区の選手が、1万メートルの自己記録より速いタイムで10キロを通過したんです。監督もビックリしていました。それでもダメだったら、もっと練習をすればいいんですよ」

若手監督の盛り上げに期待

 大阪経済大には1万メートル29分28秒10の選手が1人いる。今後、もし「鶴谷監督の指導を受けたい」とそれなりの素質を持った学生が入ってくれば、個人で勝負するような選手も育てたいという思いを持っているという。

「でも、うちが2年連続で全日本大学駅伝に出たから、奈良産業大や龍谷大、京都大なども追いかけてくるだろうし、上の大学も『大阪経済大に負けたら恥だ』と力を入れてくるでしょうね。関東の大学でも、山梨学院大に上田誠仁。同様に関西も、これからは若い監督たちが出てくるようになって、徐々に変わっていくのではないでしょうか。他の地区でも、岐阜経済大は(駒澤大OBの)揖斐祐治くんが監督に就いたし、広島経済大には、五輪や世界陸上で活躍した尾方剛監督もいるから、彼らも盛り上げてくれるでしょう。そうやっていかないと、選手が関東ばかりに集中して、地方の学生長距離が死んでしまいます」

 長距離の底辺を広げるためには、箱根駅伝一辺倒ではない多様な受け皿も必要だ。走るのが好きでコツコツ練習をする選手から、関東に行ったエリートランナーに勝ってやろうと反骨精神をむき出しにする選手まで。そういう雑多な人材が集まれば、また長距離の違った面白さも見えてくるのだろう。

<了>

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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