箱根駅伝人気の影で――関西学生長距離界が直面する現実

折山淑美

有力ランナーが関東に集中

箱根駅伝人気もあり、有力選手の多くが関東に集中する中、関西学生ランナーが直面する現実とは? 【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ】

 箱根駅伝人気で、高校のトップ選手のほとんどが関東に集中している大学長距離界。大学駅伝日本一を決める全日本大学駅伝では、1986年の第17回大会で京都産業大が優勝して以来、第45回大会の今年まで関東の大学が優勝し続けている。6位以内のシード権獲得も、99年の第31回大会で京都産業大が5位になって以降、関西勢は食い込めなくなった。今年は13位の帝京大までが関東勢。関西勢は14位から17位までに並ぶという結果になっている。

 一方、37年に始まった関西学生対校駅伝は、2005年から琵琶湖に場所を移して、将来的には58年〜61年に行われていたのと同じく、2日間で琵琶湖を一周し、箱根駅伝に対抗する一大駅伝イベントにしようとの構想があった。05年大会より東海、中国四国、九州学連から6校を招待し、09年からは“びわ湖大学駅伝兼関西学生対校駅伝”として開催されていた。しかし、琵琶湖一周コースの実現が難しいなどの理由で、昨年で中断。今年から丹後半島に場所を移し、招待校がいない“丹後大学駅伝”として実施されることになった。一大計画が頓挫した今、関西の学生ランナーには、箱根駅伝ほどの注目度や規模の駅伝を走る機会がないのが現実だ。

合宿は自己負担 草取り、ライン引きも……

 そんな関西の学生長距離選手にとってのモチベーションは何なのか。かつて高校駅伝の名門・報徳学園高(兵庫)で指導し、大阪経済大を指導して4年目になる鶴谷邦弘監督はこう語る。
「うちの大学は、関西でも力的には京都産業大や立命館大、関西学院大の下にいるチームですから、まずは全国大会出場が目標です。ただ、選手の実力はまだまだ。チームとしてレベルを上げるには駅伝が手っ取り早いし、学生も頑張るから、全日本大学駅伝や出雲駅伝の出場を目指しながら、関西で優勝することを大きな目標にしてやっているところです」

 鶴谷監督いわく、高校時代の5000メートルの自己ベストが15分ひと桁台と決して速くはない選手まで、関東の大学に進学しているという。中には、関東が嫌いだからと関西に残る者もいるが、ほとんどが「頑張って箱根を目指しても通用しないだろうから、関西で十分」という選手たちで、「関西で記録を出して関東を超えてやる」という高い意識を持つ選手は本当に少ないという。
「うちの場合は、関東の大学と環境が違う。合宿もすべて自己負担なので、そんなに何度もできない。それに、入ってくる選手はほとんどが15分20〜30秒という選手。だから、『駅伝で頑張ろう。そのためにも5000メートルで14分30秒を切ろう。1万メートルで29分台で走ろう』とハッパをかけながらやっている状態です」

 だが、上級生になると、就職活動や企業で就業経験をするインターンシップもあり、時間は取られる。
「でも、みんな陸上が純粋に好きだから、練習もサボらないでコツコツやるんですね。それに彼らは、雑用とかグラウンド整備、草取りというところから入っている。うちは土のグラウンドだから、ライン引きまでやるんです。だから、陸上とともに人間教育をやっている感じです。報徳学園高も時間をかけて上がってきたけど、今はもう一度、報徳の初期からやっているような感じですね」

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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