柿谷がベルギー戦で示した点取屋の真髄=大迫とのFW争いで代表攻撃陣活性化へ

元川悦子

オランダ戦では何でもない決定機を外す……

大迫(18番)とは、共闘体制を強調。それでも代表1トップレギュラー争いは熾烈になるだろう。 【Getty Images】

 だが、最初のオランダ戦で、またしても絶好の逆転チャンスを逃してしまう。2−2で迎えた後半33分、香川が中央をドリブルで切り裂き、狙いすましたスルーパスを出したのに反応し、GKと1対1になるところまでは完ぺきだった。けれども、右足で蹴ったボールはわずかに枠を外れていった。Jリーグではごく普通に得点している形なのに、国際試合ではどうしても決められない。外国人GKと対峙すると目に見えないプレッシャーを感じ、シュートの精度に微妙な狂いが生じてしまうのかもしれない。

「シュートシーン? もう見ての通りです。GKのプレッシャーを感じた? いや、何もない。自分の実力不足です、手ごたえはまったくない。悔しいだけです」とオランダ戦後の柿谷は何とか言葉を絞り出し、クリスタル・アレナを足早に後にするしかなかった。

 C大阪同期入団の盟友・香川が「やっぱりあそこは決めきらないといけない。2−2で終わるのと3−2で終わるのとは全然違う。悔しい」とあえて苦言を呈したことも、柿谷の反省心をより煽ったに違いない。

「ホッとはしてない」――。目はすでに未来へ

 加えて言うと、この日はFW定位置争いを繰り広げるライバル・大迫勇也が前半終了間際に同点弾を挙げ、2人の明暗がクッキリと分かれた。
「サコとはライバルというよりも、一緒に代表を強くしていければいい」と常日頃から共闘体制を強調していた柿谷だが、やはり競争に勝たなければ、試合には出られない。
 一度はC大阪から徳島ヴォルティスへの期限付き移籍を強いられ、表舞台に浮上することの難しさを実感してきた男には、サバイバルの厳しさが誰よりもよく分かっているはず。もう2度と失敗は許されないと自分自身を鼓舞したことだろう。

 こうした紆余(うよ)曲折の末に、柿谷は2013年ザックジャパンラストマッチとなったベルギー戦で、ようやくゴールという明確な結果を手にした。本田のゴールで2−1と逆転した後の岡崎慎司の3点目も、巧みなダイレクトパスでお膳立てし、1得点1アシストの大活躍でベルギー戦勝利の原動力となった。

 決定機を外し続けながらも、先発起用してくれたイタリア人指揮官に報いるとともに、支えてくれたチームメートにも恩返しすることができた。柿谷は感謝の気持ちを表したが、手放しで喜ぶことは決してしなかった。
「正直、ホッとはしてないです。今までずっと試合をやってきて、結果を残せなかったという事実は変わらない。みんなも『やっと取れたな』と言ってくれたけど、試合数を考えれば満足できる数字ではないから。今年は東アジアから代表が始まって、優勝したり、海外で試合をしてうまくいかなかったりといろんなことがあったけど、成長するための課題が1つひとつ出た。それをどうチームに持ち帰ってやるかだと思います」と点取屋の目はすでに未来へと向いていた。

点を取る正確性と安定感が競争のカギに

 今回の2連戦で柿谷と大迫がともにゴールを挙げたことで、1トップ争いが今後、より一層激化するのは間違いないだろう。裏を一発で取りゴールを奪うのを得意とする柿谷と、前線でタメも作れてチャンスメークもできるオールラウンダーの大迫はタイプが違う。対戦相手や戦術によって2人を使い分けていくことができれば、チームにとっては理想的だ。

 現時点で、2人の戦術理解度はほぼ互角といえる。ザックジャパン入り後の彼らの守備意識は飛躍的に向上しており、この2試合でもGKのところから精力的にプレスをかけてボールを取りに行く場面を何度も見せていた。今のところは2人のどちらを使っても、チームにとっては大きくは変わらないのが実情だろう。

 だからこそ、ここから先の命運を左右するのは決定力だ。コンスタントにゴールを奪えないFWは2014年ブラジルワールドカップ本番では使われない。それだけはハッキリしている。ここまでの半年間は「まだ代表入りしたばかりの選手だから」と周囲も柿谷や大迫を大目に見てくれるところがあったが、ブラジル大会本番が迫ってきたらそう悠長にはしていられない。彼らアタッカー陣に求められるのは、1つひとつのチャンスを確実にモノにする正確性と安定感を身につけること。そこが競争のカギになりそうだ。

 国内でプレーする柿谷も大迫も、欧州トップリーグやUEFAチャンピオンズリーグに参戦している本田や香川らのように、世界トップレベルのゴール前の駆け引きを磨くことはできない。それゆえ、代表レベルで体感したものをクラブで研ぎ澄ませていくしかない。
「Jリーグでプレーしている人は、世界の感覚に慣れたくても難しいし、普段の環境でできるのはイメージすることしかない。今回の2試合をどうJリーグで還元するか。それが大事だと思います」と本田も強調していた。

 その言葉通り、柿谷が世界基準のFWにスケールアップすれば、南アフリカで日本をベスト16に導いた本田のような存在になれるかもしれない。果たして彼はベルギー戦の1点を自らの起爆剤にできるのか。今こそ非凡な得点センスを持つ男の真骨頂を見せるべき時である。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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