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驚異のスコアを生んだ「呼吸」と「膝」
フィギュア“王者”パトリック・チャン

驚異的なワールドレコード、295.27点

驚異的なスコアで優勝したチャン(右)。2位羽生も「まだまだ今が勝負じゃない」と今後の戦いに臨む
驚異的なスコアで優勝したチャン(右)。2位羽生も「まだまだ今が勝負じゃない」と今後の戦いに臨む【写真は共同】

 16日のエリック・ボンパール杯男子フリー、パトリック・チャン(カナダ)がワールドレコードの大幅更新となる295.27点を叩きだした。日本男子の自己ベストは、高橋大輔(関大大学院)が276.72点、羽生結弦(ANA)が264.29点であることを考えると、驚異的な数字だ。このスコアを叩きだしたチャンのスケートの秘訣は、そして日本には勝算はあるのだろうか。


 世界選手権3連覇のチャンにとって、この五輪は絶対に勝ちたい、いや勝たなくてはならない五輪になる。他の選手と同様だが、五輪シーズンの曲選びは非常に慎重に、戦略的に行われた。


 ショートは、昨季のプログラム、ラフマニノフの『エレジー』を採用した。昨季のショートでは、チャンと羽生がワールドレコードを塗り替え合っており、高い評価を予想できるプログラムだ。チャンは「僕は曲と滑りが一体化するまで滑り込むのにとても時間がかかるタイプ。ショート、フリー両方とも変更するのは無理がある」と説明する。


 フリーはビバルディの『四季』。これは2006−07、07−08シーズンに使った曲で、07年世界ジュニア2位に入り、シニア2年目のシーズンもGPフランス杯で優勝するなど、結果を残している。振付師は変更した。


「この曲は、曲の持つフレーズと、僕の滑りのタイミングや空間、呼吸、といったものがピタリと合う。音楽と融合しやすく、スケーティングスピードもキープしやすい。五輪シーズンは、自分が心地良いと思うもの、スケートの楽しさを思い出させてくれるものに立ち返る」とチャンは自信を見せた。

満足の演技へ、意識した「呼吸」

ショートのプログラム曲は昨季から使用する『エレジー』
ショートのプログラム曲は昨季から使用する『エレジー』【Getty Images】

 初戦はスケートカナダ。「GPシリーズの初戦で緊張した」といい、ショートでは4回転の予定が3回転になり88.10点、フリーはアクセル2本をミスして173.93点で、合計262.03点。優勝は飾ったものの、満足いく内容ではなかった。


 2戦目のエリック・ボンパール杯に向けてチャンは、フリー前半の大技の練習に集中した。4回転+3回転、4回転、トリプルアクセルと3つ続く部分は、体力だけでなく緊張感をいかに保つかが難しい。そこでチャンは、3本を続けて成功させるための呼吸に注目したという。


「スケートカナダで失敗したトリプルアクセルを成功させるには、4回転2本の後の呼吸が重要だった。2本決まったあと、どのタイミングで呼吸をして、どれくらい呼吸を整えればトリプルアクセルを降りられるのか。一連の流れをすごく練習した」とチャン。


 その練習は、2戦目で早くも実を結んだ。ショートは「トレーニングしてきたことを信じて跳びました」といい、すべてのジャンプにブレがない完璧な演技で、ワールドレコードを塗り替える98.52点を叩きだした。


「まさか記録を破るなんて思いもしませんでした。ちょっとジャンプの空中姿勢でいい感じではなかったのでヒヤッとしましたが、ハードに練習して成功の感覚が身体に染みついているので、とっさに降りることができました。練習は嘘をつかないということを実感しました」と喜んだ。

野口美恵

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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