山口螢がもたらした中盤の安定感=鉄板ボランチの後継者になれるか?
予感していなかった突然のスタメン
強豪オランダとの大一番でフル出場した山口。気の利いたプレーでバランスをとっていた 【VI-Images via Getty Images】
アルベルト・ザッケローニ監督も7日のオランダ・ベルギー2連戦のメンバー発表の際、「新たな選手を積極的に試してみたい」と意欲的にコメントした。だが、石橋をたたいて渡る傾向の強い指揮官が、FIFAランク8位の強豪・オランダ相手に遠藤・長谷部のコンビを起用しないとは考えにくかった。山口螢本人も「スタメンは全然、予感していなかった」と本音を打ち明ける。
しかしながら、試合前に配られた先発のリストには彼の名前が書かれていた。7月の東アジアカップ・中国戦(7月21日)で初キャップを飾ってから7試合目。欧州組フルメンバーがそろった状態で、山口はようやく先発のチャンスを得た。ダブルボランチの並びは右に山口、左に長谷部。長谷部がアリエン・ロッベン(バイエルン・ミュンヘン)のカバーに行くという意図があり、左右のポジションを入れ替えて試合に入ったという。
気の利いたプレーでバランスを取る
「ファン・デル・ファールトは前後半通して中途半端な位置にいて、前半は特に捕まえ切れなかった。後ろとのかみ合わせやハセさん(長谷部)を前に行かせた方が有効だろうという考えがあって、チームとしてプレスをかけにいった時も自分はあまり前に出られなかった。それも守備を難しくしたと思います」と本人は淡々と振り返った。直接的なミス絡みではなかったにせよ、ファン・デルファールトに1ゴール1アシストの大活躍をされたのは、山口にとって不本意だったに違いない。
それでも、前半終了間際に大迫勇也(鹿島アントラーズ)の値千金の1点目をアシストした長谷部が「螢は目立つプレーというより、気の利いたプレー、要所要所で利くプレーを前後半通してしていたと思う」と若きボランチの黒子としての働きを高く評価したように、山口が後ろで確実にバランスを取っていたから、長谷部が思い切って出ていけた部分は確かにあった。2人のコンビも悪くなく、新たな可能性を感じさせた。
迎えた後半、日本は遠藤と香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)が登場し、山口は遠藤とのボランチコンビを形成するようになる。オランダの配球役を担っていたナイジェル・デ・ヨング(ミラン)が負傷交代したことも追い風になり、試合展開は劇的に変化した。日本はハイプレスで相手を凌駕し、次々と攻撃のチャンスを作る。山口は遠藤とともに最終ラインに下がってビルドアップに参加。内田篤人(シャルケ)と長友佑都(インテル)、後半から出てきた酒井高徳(シュツットガルト)らサイドバックに高い位置を取らせることに成功する。遠藤が引いた位置で長短のパス出しをしていたこともあって、山口自身が前線に飛び出す回数も前半より増えた。
「ヤットさん(遠藤)も上がりますけど、そんなにガンガン行く感じじゃないし、真ん中でゲームを作る役割が多いから、自分が積極的に出て行こうと考えていました。パートナーがどうであれ、前半からそれを出せたらもっと攻撃に厚みが加わりましたよね。それでも、今までの代表戦に比べれば、前へ行く長所はかなり出せたと思います」と山口は自信と手ごたえをつかんだ様子だった。
チームの起爆剤になる可能性
代表チームの浮沈を左右するとさえいわれたオランダとの大一番で90分間、献身的に働き、2−2のドローに貢献した新世代のボランチの台頭を、仲間たちも歓迎していた。
本田圭佑(CSKAモスクワ)は「彼らの能力は非常に高い。大迫のゴールでFWのレギュラー争いも激しくなってきますし、中盤の僕にとっても安泰なポジションではない。しっかり結果を出し続けた選手が出られるのが代表だと思う」と新たな競争を前向きに捉えていた。山口が強力なライバルになるかもしれない立場の長谷部も「監督が違った選手を試して目に見えて競争が出てきた。チームを作るうえで競争は絶対に必要なもの」と新たな意欲をかきたてられたようだ。
山口本人は「まだヤットさんとハセさんの間に割って入るようには思えてない。まだあの2人が不動やと思う」とあくまで謙虚な姿勢を貫いていたが、この男ならザックジャパンの起爆剤に十分なれるのではないか。