野球を超え、理想を実現した『42』の伝説

しべ超二

ジャッキー・ロビンソンの闘いを描いた物語

る映画『42〜世界を変えた男〜』はジャッキー・ロビンソンの闘いを描いた物語 【(c)2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.】

 日本シリーズは東北楽天イーグルスが、野球の力を改めて感じさせる優勝でその幕を閉じた。時を同じくして、これも野球の力を感じさせる映画『42〜世界を変えた男〜』が11月1日より公開中。史上初の黒人メジャーリーガーとして公民権運動の先駆けともなった、ジャッキー・ロビンソンの闘いを描いた物語だ。

 4月15日、大リーグでは全ての選手、監督、コーチが背番号「42」を付け試合に出場する。「42」は全球団共通の永久欠番。人種の壁を破り、大リーグ初の黒人登録選手となったロビンソンの功績を称えてのものだ。4月15日はロビンソンがメジャーデビューを果たした日であり、「ジャッキー・ロビンソン・デー」と呼ばれている。

野球王国・アメリカならではの描写シーンの数々

数々の描写シーンはベースボール大国・アメリカならではの臨場感だ 【(c)2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.】

 大学時代にバスケで2年連続得点王に輝き、走り幅跳びでは全米記録を更新、アメフトは国内有数のランニングバックと、まさにスーパーアスリートであったロビンソンだが、映画はロビンソンが二グロリーグ(黒人だけの野球リーグ)でプロ野球入りした1945年からの3年間に焦点を当てている。

「金は白でも黒でもない、緑だ」と、ロビンソンを大リーグへ誘う球団GMブランチ・リッキーに扮するのはハリソン・フォード。かつてのハン・ソロやインディ・ジョーンズといったヒーロー像を感じさせることなく、ロビンソンの支えとなり、ともに闘うリッキーを重厚感を醸し出しつつ演じている。本作は困難と逆境を2人が心を同じくして進む、“バディムービー”的側面もある。

「長い年月、変わらなかったのは野球だけだ」というのは、同じく野球を題材にした傑作映画「フィールド・オブ・ドリームス」の台詞だが、本作はロビンソン不屈の闘いを描く一方で、長く国民的娯楽としてアメリカの心をとらえてきた野球の魅力も鮮やかに映し出している。

 ロビンソンがメジャーリーガーとして歴史的一歩を踏み出すと、そこに広がる青空と香ってきそうな緑のグラウンド。投手が投げるボールは弾丸のような速さでミットへ飛び込み、スライディングは地面からのカメラで迫力いっぱいに、息を飲むクロスプレーはベースをクローズアップしてとらえる。臨場感と詩情をたたえた野球シーンの描写は、やはり野球王国・アメリカならではだ。

一人の男の人間ドラマとして、何よりの見応え

世界を変えた一人の男の物語として、何よりの見応えがある 【(c)2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.】

 しかし野球の魅力を的確に描き出しているのはたしかだが、信念を曲げず、気概を持って人生を歩んだ一人の男の人間ドラマとして、本作は何より見応えがある。

 ロビンソンはブルックリン・ドジャース入団に際し「やり返さない勇気を持つこと」をリッキーに約束させられ、いかなる罵声・嫌がらせを受けても、野球選手としてのプレーを貫く。やがて、どんな目に遭おうと紳士的振る舞いを崩さないロビンソンの姿に、受け入れようとしなかったチームメートや観客たちも変わっていく。「俺たちはチームだ」と差別を超え、自身の信条を変えてロビンソンに歩み寄っていくチームメートに胸を熱くさせられる。

 差別を排した平等=野球を超えた理想の実現。

「シネマ地獄拳」を冠する当コラムは、「人は変われる!」という『ロッキー4/炎の友情』にも通じるメッセージを『42』にも感じ取ったことを記し、本稿の結びとしたい。

映画『42〜世界を変えた男〜』は現在公開中
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著者プロフィール

映画ライター。ペンネームは『シベリア超特急2』に由来し、生前マイク水野監督に「どんどんやってください」と認可されたため一応公認。松濤館空手8級。

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