揺れる日本を襲う難敵オランダの揺さぶり=鍵を握る両サイドのスペースをめぐる攻防

清水英斗

サイドアタッカーへの供給源を断て

セットされた状態であればザッケローニ監督(中央)もきちんと戦術を立てて臨むだろう。「攻守の切り替え」時に生じるスペースには注意したい 【写真は共同】

 やはり最大のポイントは、ロッベンとレンス、オランダの武器である両サイドアタッカーを潰すことだろう。長友佑都、内田篤人は経験豊富なサイドバック(SB)だが、オランダが誇るサイドアタッカーに充分なスペースを与えた中での1対1は、さすがに分が悪い。というより、そんな状況で彼らを完璧に止められるDFを見つけること自体が難しいだろう。

 2人のドリブラーから時間とスペースを奪い取るために、いかに長友と内田がプレッシャーをかけ続けるか。そのためには、彼らに対するボールの供給源をコントロールしなければならない。

 一つの有効な手段は、オランダのSBから追い詰めることだ。たとえば日本の両サイドハーフ、香川真司や岡崎慎司、清武弘嗣が相手SBをタッチライン際に追い込み、パスコースを縦に限定する。この状況でロッベンやレンスがボールを受けても、タッチライン際なのでスペースが狭く、さらに日本のゴール側に背中を向けた状態なので危険が少ない。そこへ長友や内田、さらに香川や岡崎が挟み込むように襲いかかり、2対1でボールを奪い取る。これが一つの理想だ。

明確にしたいボールの追い込み方

 逆にボールの供給源をコントロールする上で、やってはいけないのは、逆三角形型に配置されたオランダのMFのマークを空けることだ。スナイデルは欠場するが、ラファエル・ファン・デル・ファールト(ハンブルガーSV)、ケビン・ストロートマン(ローマ)、ナイジェル・デ・ヨンク(ミラン)、彼ら3人のいずれかがフリーになると、両サイドや前線に対して広い角度でのパス展開を許し、日本のDFがパスコースを絞り切れない。
 そうなれば内田や長友は思い切ってロッベンやレンスに寄せづらくなり、スペースを与えてしまう。仮に2メートルも寄せが遅れれば、彼らは余裕で仕掛けてくるに違いない。そしてパス角度の観点からも、オランダのSBからタッチラインを沿うように送られる窮屈な縦パスとは異なり、中央のMFからはロッベンやレンスに斜め方向へパスが送られるので、2人のドリブラーはボールを受けながら自然と日本のゴールに向かいやすくなる。

 遠藤保仁、長谷部誠、本田が連係してオランダの3人の中盤を抑え切ることができるか。ここはキーポイントになるだろう。特にオランダはビルドアップ時にGKシレッセンをパスワークの一員に組み込むため、GKへの追い込み方も重要になる。09年の親善試合では、オランダがGKを使って組み立てるビルドアップに対し、あまり狙い所を絞り切れずに走り回った感がある。それも、当時の試合で岡田ジャパンが後半にバテてしまった大きな要因と言えるだろう。ザックジャパンは、あえてGKにボールを持たせて待ち構えるのか。それとも寄せてロングパスを蹴らせるのか。ファーストディフェンスの狙いが明確にならなければ日本は間延びし、芋づる式にプレッシングが外されオランダの中盤をフリーにしてしまう。このようなポイントはさまざまにあるが、最終的にはロッベンやレンスを快適にプレーさせないことが重要だ。

 おそらく、セットされた状況、すなわち相手のゴールキックやスローインなどから始まる守備に関しては、ザッケローニ監督はきちんと戦術を立てて臨むだろう。その点に関しては、あまり過剰に不安を抱くことはない。難しいのは、「攻守の切り替え」時に生じてしまうスペースだ。例えば本田や遠藤が攻め残った場面でミスが起き、素早くオランダにパスをつながれると、そこから芋づる式にロッベンやレンスらもフリーになりやすい。

 オランダは相手の隙を突いて攻めるのが巧いチーム。とはいえ、カウンターを恐れすぎると日本の攻撃面での勢いが弱まってしまう。それも悪循環だ。理想のバランスはどこにあるのか。オランダの個の力は、「ブレる」、「ブレない」と揺れるザックジャパンの組織を、さらに強く揺さぶってくるに違いない。

 難しい相手だ。しかし、この対戦相手から得られる自信は相当に大きいだろう。

<了>

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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