“大人のGK”へ変貌を遂げた榎本哲也=堅守マリノスを支えるゴールの門番

小林智明(インサイド)

クラブ新記録となる5試合連続無失点

アグレッシブなスタイルだった榎本は、試練を乗り越え“大人のGK”に変貌を遂げた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 そんな苦労人・榎本が報われた証左となったのが、今回の月間MVPだろう。授賞理由はズバリ、10月開催のリーグ戦3試合で無失点に終えたこと。失点ゼロは第26節(9月21日)・清水エスパルス戦から続き、31節(11月10日)の名古屋グランパス戦(1−2)で途絶えるまで、5試合連続で続いた。これはクラブ新記録である。

 この大記録はもちろん、榎本一人の仕事ぶりだけで達成できるものではない。根底には、横浜FMが昨年、第25節(9月15日)の浦和レッズ戦(1−2)から採用した4−2−3−1システムをベースに磨き上げ、相手の出方に応じて形を変える連動性の高いディフェンスにある。

 それは経験値の高いベテランが多い分、よどみなく遂行できる。またその5試合ではセンターバック栗原勇蔵、中澤佑二のチャレンジ&カバーも出色の出来だった。かといって、90分間すべてが完璧だったわけではない。数こそ少ないとはいえ、時間帯によっては、どうしても相手にシュートを打たれ、決定機をつくられる場面もある。そこでゴールの門番として、ビシッとゴールにカギを掛けてくれたのが、榎本だった。

飛び込まずに自分の間合いに引き込む

 ハイライトは、首位攻防戦となった10月19日、第29節のサンフレッチェ広島戦だろう。序盤、攻勢に出ていた広島がビッグチャンスを生む。青山敏弘が自陣からのFKをクイックスタート。一瞬の隙を突き、ロングスルーパス一発を通して石原直樹が独走し、榎本と1対1に。この絶体絶命なピンチでも、榎本の頭の中はクールだった。

「間合いの詰め方が良かった。慌てずに先に倒れないようにした。そうすると相手も迷うと思うので」

 下手に足元に飛び込んだら、石原にかわされていた可能性が高い。重心を低く構え、詰めながら粘って、相手のスピードと距離感を見極めたからこそ、石原のシュートをブロックすることに成功した。この一戦、決勝ゴールを挙げた日本代表の齋藤学が大きくクローズアップされたわけだが、中村俊輔は「最初の(榎本)テツが止めたのが一番大きかった」と、勝敗を分けたポイントに挙げている。この粘って自分の間合いに引き込むセービングは、天皇杯3回戦(10月16日)の栃木SC戦でも披露している。30分にやはり縦パスで抜け出した相手アタッカーに対して、飛び込まずに粘って自分の間合いに引き込んで止めた。

 また、第28節(10月5日)の敵地・ヴァンフォーレ甲府戦ではキックオフ後すぐに押し込まれ、1分、2分といきなり2度のピンチを招いたが、ともに素晴らしい反応で枠からボールを弾き出した。

「早い段階で危ないシュートを止められたので、自分の流れもつかみやすかった」と榎本。中澤は試合後、「守備はテツを中心に意識高く守れている」と、守護神を称える。立ち上がりの難しい時間帯でも、高い集中力を発揮できるのが、榎本の良さでもある。

 榎本も今年5月で30歳。若かりし頃は、アグレッシブなスタイルのGKだった。それが時には空回りをして「失敗した試合もあった」(榎本)。しかしプロ13年目の今年、研さんを積み、試練を乗り越え、“大人のGK”に変貌を遂げた。最後尾に榎本哲也がいるからこそ、横浜FMは優勝に突き進める。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント