さらなるレベルアップを―浅田真央の挑戦 少しずつ積み重ねた佐藤コーチとの信頼関係

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GPファイナルの出場権を早々に獲得

圧勝でNHK杯連覇を飾った浅田真央だが「今後もレベルアップしたい」。五輪を視野にもっともっと強くなる 【坂本清】

 フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第4戦・NHK杯で自己ベストを更新し、優勝を飾った浅田真央(中京大)の表情は、一夜がたった11月10日の午前中も明るかった。前日(9日)のフリースケーティング(FS)では、代名詞のトリプルアクセルこそ両足着氷になったものの、それ以外はしっかりとまとめ136.33点をマーク。合計スコア(207.59点)で2位のエレーナ・ラジオノワ(ロシア)に16点近い差をつけて、文字通りの圧勝を収めた。

「バンクーバー五輪(2010年)のシーズンは、ジャンプのことも悩んでいましたし、自分の思うような演技ができませんでした。それに比べて今シーズンはとても良い状態です。今後も階段を1段、2段と上がっていくようにレベルアップしていきたいです」

 今季初戦となった10月のジャパンオープンでは、FSで非公認ながらパーソナルベストを更新(135.16点、NHK杯でさらに更新)。同月のスケートアメリカでも2位に10点以上の差をつけて優勝しており、向かうところ敵なしの状態が続いている。GPファイナルの出場権も早々に獲得した。

 完璧な演技をしているわけではない。トリプルアクセルは両足着氷や回転不足をとられ、今季は1度も完全には成功していないし、そのほかのジャンプでも時折ミスが散見される。それでもジャンプ以外のスピンやステップではレベル4をほぼ常に獲得しており、スケーティングの技術が安定していることが今季の高得点につながっている。浅田も「今季はスピンやステップですべてレベル4を取っているのでそれはうれしいです。ジャンプのプラスにもなっています。プログラムのなかで『これをやらないといけない』という焦りがないので、いまはただ練習通りに滑っています」と、演技全体に良い影響を及ぼしていることを喜んでいた。

基礎を一から見直す

FS後、スコアを見て喜ぶ浅田(左)と見守る佐藤コーチ 【写真:AP/アフロ】

 こうした浅田の好調の裏には、佐藤信夫コーチの存在がある。バンクーバー五輪後の2010年9月から師事するこの名伯楽のもとで、浅田はジャンプやスケーティングを基礎から見直してきた。癖のついたジャンプを矯正するのは大変だったようで、一時期は簡単なジャンプすら跳べなくなるなど不振に陥った時期もあった。浅田は当時を振り返ってこう語る。

「最初は何もかもが新しくて、自分がやろうとしてもできなかったりだとか、これで合っているかなと思っても違っていたりだとかがあったんです。基礎から見直して1からやるというのは本当に大変なことで、やっている最中にこれで大丈夫かと悩むこともたくさんありました」

 しかし、辛抱強く基礎を繰り返していると、佐藤コーチの意図していることが自身の中で腹落ちしてくる瞬間が出てきた。
「1、2年たつうちに先生の言っていることが分かってきて、自分もできるようになったんです。いまでは失敗したら先生の言っていることがよく分かるし、それがすごく明確になっています」

 佐藤コーチに指導を仰ぐことによって、浅田自身の意識にも変化が出てきた。読書家の佐藤コーチに倣い、遠征先や飛行機のなかで本を読むようになった。さまざまな考え方に触れることで視野が広がり、新たに開ける道があることに気づいたという。「以前までは自分がやってきたことを変える勇気がなかったんですけど、それだけではないなと思ってきました。練習方法なんかもそうなんですけど、いろいろ変えたことがすべてうまくいっているんです」。年齢を重ね、多くの経験を積んできた浅田の成長もあるのだろうが、師から受けた影響も、現在の好調につながっていると言っても決して過言ではないだろう。

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