“神の左”山中、KO防衛でV5も反省「右をもっと練習しないといけない」

長谷川亮

観客に「イライラさせて申し訳ない」

5度目の防衛を4連続KOで飾ったWBC世界バンタム級王者の山中 【t.SAKUMA】

 WBC世界バンタム級タイトルマッチは、終わってみれば今回も山中慎介がゴッド・レフトで打ち抜いてのKO防衛。しかし、試合後「きれいに当たったのは最後だけ」と言うように、そこへ至る道は8R終了時点でジャッジ3者ともに79−71とリードこそあったが苦闘を強いられた。4連続となるKO防衛を可能にした山中の進化=“右”の存在、そして試合を自身の言葉と陣営の証言で振り返る。

 世界王者経験者との対戦が続いた後で迎えた8月のV4戦、「過去3回の相手(ビック・ダルチニアン、トマス・ロハス、マルコム・ツニャカオ)より劣っているとは最初の方で感じました」という山中は、様子見することなくゴッド・レフトを一気に伸ばし、わずか2分40秒でホセ・ニエベスにKO勝ち。

 今回も「相手のフィジカル面が弱いのを感じ」倒しに掛かったが、ステップに長けたメキシコのアウトボクサー、アルベルト・ゲバラは、パンチを「当てさせてくれなかった」。「よけるのがうまく、足を使うのもうまい。今までで一番倒しにくい相手」と戦前に予想していた山中だが、パンチの当てにくさは「予想以上」で、試合後のリングでも王者は「なかなかパンチが当たらなくてイライラさせて申し訳ないです」と反省しつつ観客に詫びた。

「強引な」右のジャブで距離を縮める

この一戦は足を使って動き回る挑戦者ゲバラに対して、どう距離を詰めるかが焦点だった 【t.SAKUMA】

 前回の160秒KOがあったため手こずったようにも映ったが、敗北は世界戦でのわずか1度(18勝1敗・6KO)、防御に優れKO負けのない難敵をきっちり倒しての防衛に、「捕まえにくい相手をよく捕まえた。技術面も精神面も強くなった。当てにくいのは予想したがあれだけ徹底されると難しいし、そういう相手をKOできたのは大きい。左ストレートも入ってきたところに合わせられるし、追っても当てられる。ボクシングの幅が広がったと思う」と帝拳ジム・浜田剛史代表も評価した。

 山中は試合を「向こうの流れでもないし、自分の流れでもない。自分のペースになってはなかった」と振り返ったが、4Rまでの採点は39−37、39−37、40−36と3−0でリード。ポイントで先行し「(距離が)徐々に詰まっていくのは分かった」と、やがてとらえられるという揺るぎない自信から「焦りはなかった」と言う。大和心トレーナーも「毎ラウンド毎ラウンド、距離は詰まっていった」と話し、山中も陣営も“その時”が来るのを待っていた。

 試合は戦前「彼の左をかわす自信はある」と語った通りにゲバラがクリーンヒットを与えず進めたが、左に比べ右に対する警戒が落ちるのを帝拳ジム・本田明彦会長が見て取り、山中が指示に従い「強引に当てていくジャブ」を出しとらえると、次第に距離が詰まり8Rのダウンシーンが訪れる。

ゴット・レフトでのKO劇にもさらなる強化の余地

最後は9Rで数々の強敵を倒してきた“神の左”が炸裂。ゲバラをマットに沈めてKO勝利となった 【t.SAKUMA】

 2度奪った8Rのダウンはどちらも「感触がなくクリーンヒットではなかった」という山中だが、最終9RのKOパンチは「思いっきり踏み込んでワンツーを打ったら、パンチが伸びて(相手が)倒れた」と会心の手応え。しかし仕留めるのに時間が掛かったことを反省してか、「全体的に悪くはなかったけど、良くはない。まあまあです」と自己採点は芳しくなかった。

 この日は右で突破口を開き、左でのKOに繋げたが「プレスを掛けてるのはいいけど、手が出なくてうまい具合に(ゲバラに)出てこられた。“右の出し方をもっと練習しないと”と試合中に感じた」と、右を磨き上げることで、ゴッド・レフトにもさらなる強化の余地があることを語った。

 来年の展望について、山中は「本当に強い相手や、みんなが喜んでくれるカードを」と言い、問われれば亀田兄弟(興毅・和毅)との統一戦にもやぶさかではない様子で「自信はあります」と回答。ただ、「評価されてる選手とやって、自分の評価を上げたい」というのが本音のところか。ジムの先輩で日本人初の快挙を成し遂げた、西岡利晃に続く本場・ラスベガスでのタイトルマッチを目指す。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント