宮間あやが語る半生と女子サッカーの今=岡山湯郷となでしこジャパンのステータス

チェーザレ・ポレンギ

岡山の山あいにある練習場へ

宮間はこれまでの半生と女子サッカーの今を語った 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 岡山から一両編成の電車に揺られ、緑溢れるいくつかの谷を通り過ぎると、林野という小さな駅に辿り着く。駅からさらに車で少し移動し、山あいのスポーツ施設へ。そこでは小雨の中、岡山湯郷ベルの女子サッカー選手たちが練習に励んでいた。周囲は全くの静寂に包まれており、ただ選手たちのボールを呼ぶ声や、笑い声や叫び声だけが聞こえてくる。

 早秋の夕暮れが迫ると、ピッチに残ったのは数人の選手のみとなり、彼女たちはセットプレーの練習に取り組み始めた。その中でも小柄な宮間あやの両足からは、ひときわ素晴らしいフリーキックが放たれていた。

 私服姿の宮間と街中ですれ違ったとしても、彼女が世界女王であるなでしこジャパンのキャプテンだとは誰も気が付かないかもしれない。だが彼女が練習する姿を2時間ほど見ているだけでも、2年連続でアジア最高の女子選手に選ばれた理由がはっきりとうなずけるものだった。

「練習はすごく好きです。PKやFKの練習は毎日、何本でもいいから練習しています」と語る宮間。女子サッカーにおいては男子ほどフィジカルに物を言わせるプレーはなく、それはそれで好ましいことかもしれない。だが一方で、彼女が試合中にそのセットプレーからのキックを披露する機会が限定されるのは残念なことにも感じられる。

両足の正確なキックは子供の頃から

 東アジアカップのときに、韓国人記者から宮間の利き足はどちらなのかと尋ねられたこともあった。「自分で確認してみればいい」と答えたが、中国戦(7月20日)の90分間を終えても、彼は答えることができなかった。この話をすると宮間は笑って、ある意味満足げな様子だった。

「子供の頃から両足で、今も同じ。直接狙う時に左で蹴ることはほとんどないですが、中の選手が走って自分のボールが直接入るような時は左足で蹴ることもあります。両足で蹴るようになったのは、母にボールを投げてもらい、蹴る練習をしていた時。右、左と投げてもらって、どうして左だけうまく蹴れないのと言われ、それがきっかけで一生懸命練習するようになりました」

 プレス席の記者たちの間で、宮間は「ピルリーナ」の愛称で呼ばれることがある。イタリア語で「小さな女ピルロ」といったところだ。そのことを伝えると、彼女は喜んでくれたようだ。

「好きな選手は、いっぱいいる。日本人選手では中田英寿選手が好きでした。でも、今だったら、ピルロ! 最近はチャンピオンズリーグも含めてテレビでユベントスの試合をよくやってくれるから、ピルロもよく見ています」

温かいファンに支えられ、なでしこリーグでも存在感を発揮

 ワールドワイドなサッカーの話題はこれくらいにして、今回の岡山訪問の目的だった本題へ。宮間の所属するクラブである岡山湯郷ベルの現状をより良く理解させてもらうことだ。まず聞いてみたかったのは、このクラブのエンブレムについて。いわゆる「地方」の小さなコミュニティーを代表するクラブでありながら、アジア全体の地図を大きな羽で覆うようなエンブレムを採用しているのはどのような意図なのだろうか。

「このデザインの考案者は本田(美登里)前監督で、世界にこの岡山県を発信したいという意味が込められていると思います」

 岡山県のサッカーの現状とはどういったものなのだろうか。毎回のホームゲームで平均約2500人(2013年)の観客に支えられている岡山湯郷ベルは、そのファン層にもある種独特なものがあるようだ。

「ほんとに小さなチームですが、みんなの力で、いろいろな人に支えられているチームです。チームメイトは近郊のあらゆる企業で仕事をしながらサッカーしています。みんなサッカーが好きで、たくさんの人に支えられているということを理解しているから、自分たちが頑張らなくちゃいけないという意識は強いです。あらゆる年齢層の観客がいて、家族連れで小さい男の子や女の子が来てくれるのがうれしいですね。みんな同じ市内に住んでいるので、本当に気軽に、頑張ってねとか、勝った週とかはすごかったねとか声をかけてもらえます」

 温かいファンにも支えられ、ここ数年の岡山湯郷ベルはINAC神戸と日テレ・ベレーザによる二極支配を打ち破るべく奮闘してきた。なでしこリーグ第12節(9月29日)では、宮間の2ゴールにより2−1とついにINACを打ち破ることに成功していた。おそらく歓喜の言葉が聞けると期待して質問してみたのだが、彼女の返事は決して勝ち誇る様子ではなく、むしろ相手を思いやるものだった。

「試合中は相手の方がすごく難しい状況でした。向こうの選手はほとんどがプロ契約選手で、こちらはほとんどがアマチュア、絶対に勝たなきゃいけない状況で、すごく苦しいと思ったから。勝ったことはうれしかったですけど、INACには友達も多くいますし、相手チームがいないとサッカーもできないので。もちろん味方が一番大切ですけれど、相手の存在もすごく大切です」

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著者プロフィール

イタリア、ミラノ生まれ。1994年より日本に滞在。現在はGoal Japanの編集長として活躍、また今季は毎週水曜日Jスポーツ『Foot!』に出演中。ツイッターアカウントは@CesarePolenghi

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