好調サウサンプトンでの吉田麻也の現在地=明暗を分けたプレシーズンの準備の差

寺沢薫

ここまでリーグ最小失点の堅固な守備陣

今季、出場機会が得られない吉田。プレシーズンに十分な準備ができず、戦術理解やフィットネス不足からライバルに遅れをとった 【Getty Images】

 プレミアリーグ10試合で5勝4分け1敗の6位、サウサンプトンが好調だ。得点こそ「11」と多くはない(リーグ9位)が、失点「4」はリーグ最少。欧州5大リーグを見渡しても、サウサンプトンより失点が少ないのはセリエAで開幕10連勝を飾ったASローマ(11試合で2失点)だけだ。決して弱小ばかりとの対戦だったわけでもない。難所アンフィールドでリバプールを破り(9月21日、1−0)、過去10年間で8戦して全敗していたマンチェスター・ユナイテッドとはオールド・トラッフォードで引き分けている(10月19日、1−1)。

 この勢いはおそらく本物だ。

戦術のキーワードは“ハイプレス”

 強さの理由を、元イングランド代表DFマーティン・キーオンが「デイリーメール」のコラムで分析している。かつてアーセナルの最終ラインを支えた名DFの考察から、要点を抜粋してみよう。

「失点が少ないことが、必ずしも4バックだけの功績というわけではない。彼らは素晴らしいチームインテリジェンスを持っている。各プレーヤーが、ボールの有無に関わらず何をすべきか明確に分かっているのだ」

「彼らはボールを取り戻すために激しくハイプレスをかける。選手たちはプレッシャーをかけて相手を押し込むことを楽しんでいる。より素早く、ハードにプレスをかけることで相手のミスを誘発し、ボールを奪い返すのだ」

「サイドバックがウイングのようにプレーするのも特徴で、考え方はバルセロナと近い」
 マルセロ・ビエルサ監督を尊敬してやまないマウリシオ・ポチェッティーノ監督のスタイルを考察する記事は他にも多い。「スカイスポーツ」の特集記事にはこうあった。

「相手がボールを持つと、“フロント4(1トップ+2列目の3枚)”がプレスをかける。その網をかいくぐると2枚の守備的MFが待ち伏せていて、さらにその奥に4バックがいる」

 彼のチームのキーワードは“ハイプレス”。その完成度の高さは、元イングランド代表で人気解説者のジェイミー・レドナップが「こんなに統率の取れたチームは見たことがない」と感嘆したことからも明らかだ。

今シーズンの序列は“CBの4番手”

 しかし、残念ながら好調を維持するチームに日本代表DF・吉田麻也の姿はない。開幕からここまで、センターバック(CB)はジョゼ・フォンテとデヤン・ロブレンのコンビが全試合フル出場を続けている。吉田はプレミアリーグで出場がゼロ。ベンチ枠7人のうち1枠を割いているCBの控えにも10試合中9試合でヨス・ホーイフェルトが入っており、ベンチ入りすらここまで1試合だけだ。吉田がピッチに立ったのはキャピタルワン・カップだけ。つまり、今の吉田は“CBの4番手”にいる。

 最終ラインの軸は間違いなくロブレンだ。この夏、オリンピック・リヨンから推定850万ポンド(約13億5000万円)で加入したクロアチア代表は、ここまで額面通りの活躍を見せている。ここまで10試合で「スカイスポーツ」の平均採点は「6.9」と高水準を維持。リバプールを1−0で破った第5節には週間ベストイレブンに選ばれ、「威圧的なプレーと勝ち点3を引き寄せたプレミア初ゴールは、大型投資が正しかったことを示している」と高評価されている。

 指揮官たっての希望で獲得したロブレンの活躍は理解できる。だが、吉田はその相棒にも選ばれていない。昨シーズンの出来を考えれば、相棒のファーストチョイスは吉田だったはずだ。センターバックの中で最多のプレミア32試合に出場した1年目、もちろん全試合で完璧なプレーを見せたわけではなくミスもあったが、吉田の現地評価はお世辞抜きに高かった。

「デイリーメール」のある記事では「300万ポンド(約5億円)以下の移籍金でやってきたお買い得選手」というリストに、スウォンジーで大ブレークしたミチュと一緒に吉田の名前が載ったこともあった。今季開幕直前の時点でも、「テレグラフ」のプレビューには「クリーンシート(無失点)のリーダーは吉田」と言及されていたし、「インデペンデント」の開幕戦プレビューでも、対戦するウェストブロムウィッチのヨナス・オルセンと吉田が両チームの守備のキーマンとして取り上げられた。しかし、フタを開けてみれば……というのが今の状況だ。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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