ミドル級最強ゴロフキンV9 夢の村田諒太戦の可能性は?

杉浦大介

8RTKOでWBAミドル級王座V9

9連続KOでWBA王座を防衛したミドル級最強ゴロフキン。夢の村田戦の可能性は? 【Getty Images】

 まるで血の匂いを嗅ぎ付けたサメのように――。必死の抵抗を繰り広げた挑戦者カーティス・スティーブンスを追い回し、ミドル級最強の男、ゲンナジー・ゴロフキンは様々な角度から強烈なパンチを打ち込み続けた。
 11月2日にニューヨークのマディソンスクウェア・ガーデン・シアターで行なわれたWBA世界ミドル級タイトル戦は、大方の予想通りの打撃戦となった。
 第2ラウンドにゴロフキンが2発の左フックを打ち込み、挑戦者は痛烈なダウン。間もなくフィニッシュが訪れるかと思われたが、地元ニューヨーク出身のスティーブンスもその後に切れ味鋭い右ストレート、左フックで反撃する。これまでほとんど守勢に廻ったことのないゴロフキンが、中盤ラウンドには強打を浴びるシーンもあった。
 しかし、8ラウンドにはダメージがたまった挑戦者をロープ際で追い回し、この回終了後にレフェリーが試合をストップ。最後は余裕を持ってTKO勝ちを収めた怪物王者は、これで15連続KO勝利となった。同時に、保持する世界タイトルの9連続KO防衛を成し遂げたことになる。
「ジムで練習した通りにリードパンチを上手く使い、相手を崩すことができました。パワーがある相手なので少し注意深く戦いましたが、常に快適さを失うことはなく、トラブルに陥るようなことはありませんでした」
 リング上でのそんな言葉通り、パワーに定評あるスティーブンスの左フックを受けても、ゴロフキンがダメージを感じさせることはなかった。
 最近では最も手こずった一戦でも、ストップ時には3人のジャッジはすべて大差(80−71、79−71、79−72)でゴロフキンを支持。世界の首都ニューヨークへの3度目の登場にして、カザフスタン出身の怪物は改めてその底力を証明したと言って良いだろう。

米国での人気、知名度もうなぎ上り

 これで2013年のゴロフキンは4戦4勝4KO。プロ通算でも28戦全勝(25KO)となり、勢いは止まる気配がない。人気、知名度もうなぎ上りで、米国内のメディアに取り上げられることも急増。スティーブンス戦の前にはタイムズスクエアにビルボード(巨大広告看板)が飾られ、試合当日はMSGシアターがほぼ完売(公式発表は観衆4618人)となった。
「これまで望み通りのマッチメークが実現して来たわけではありません。フリオ・セサール・チャベス・Jr、セルヒオ・マルチネス、ダニエル・ギールといった強豪選手との対戦は実現できませんでした。彼らの代わりに、その時々で最善と思える対戦相手を見つけて来たのです」
 ゴロフキンが所属するK2プロモーションのトム・ローフラー社長のそんな言葉通り、最近では対戦相手を見つけるのも容易ではなくなっている。
 今年3月には元世界スーパーウェルター級暫定王者の石田順裕を、6月には実力者のマシュー・マックリンを衝撃的な形で完全KO。一撃筆頭のパワーに加え、アマ355戦350勝の実績通りに技術的な下地も十分に備えている。
 スティーブンス戦では相手の高速パンチを浴びるシーンも散見し、スピードあるアウトボクサーには今後も苦戦することは考えられる。ただ、これほどプレッシャーをかけるのが上手く、パワーも秘めた選手をフルラウンドに渡ってかわし切るのは、誰にとっても並大抵の難しさではないだろう。

「日本でムラタ戦? まったく問題ないですよ」

 2012年9月の米国デビューからわずか14カ月――。破竹の勢いで世界の強豪をリングに沈め続けるKOアーティストは、アメリカ国内でも短期間にセンセーショナルな存在となった。スティーブンス戦では打たれ強さも証明しただけに、今後は挑戦者探しがさらに難しくなっても不思議はない。

 だとすれば、近い将来に再び日本人のチャレンジャーが名乗りをあげてくれないだろうか……そう考えるファンも少なからず存在するかもしれない。
 過去に石田、淵上誠がゴロフキンに挑んでともにKOで粉砕されたが、もう一人、切り札と言えるボクサーが日本に存在する。ロンドン五輪のミドル級で金メダルを獲得し、今年8月にプロデビューを飾った村田諒太である。
「ムラタ? ああ、ロンドン五輪の金メダリストですね。試合は見たし、よく覚えています。とても体格に恵まれていて、ストロングなボクサーという印象。身体の大きさが特に記憶に残っています。身体能力にも恵まれているので、プロでも素晴らしいキャリアを過ごすでしょう」
 リングを離れればどんな取材にも気さくに対応するゴロフキンに村田に関して訊くと、そんな答えが返って来た。さらに、“いつか村田が成長したとして、条件次第で日本での試合は?”と続けると……。
「はい、まったく問題ないですよ」
 もちろん、まだ余りにも気が早過ぎる。ゴロフキンはすでにミドル級最強ボクサーの称号を確立しようとしているのに対し、村田はプロデビュー戦を終えたばかり。ゴロフキンにとって当面は、長くミドル級に君臨して来たセルヒオ・マルチネス、あるいは1階級上のスーパーミドル級の支配者であるアンドレ・ウォード、カール・フロッチとのビッグファイトが目標になるのだろう。村田がミドル級の世界戦線に上り詰める頃には、すでにスーパーミドル級に主戦場を移してしまっている可能性も低くない。
 ただ、現代のミドル級にこれほど強いチャンピオンが存在し、時をほぼ同じくして日本から規格外のボクサーが誕生したのである。難しいと分かっていても、直接対決を夢見るのは自然の流れ。村田が所属するトップランク社とゴロフキンがともに米メガケーブル局HBOのバックアップを受けていることを考えれば、まったくの夢物語とも言い切れまい。
 12月にプロ2戦目を控えた村田には、証明しなければならないことが山ほどある。27歳の年齢を考えれば、時間との戦いでもある。しかし、いつの日か、それほど遠からずうちに、カザフスタンの怪物パンチャーの背中が見える位置まで到達して欲しいと願わずにはいられない。
 ゴロフキン対村田戦が実現することがあれば、場所がアメリカでも日本でも、特に日本人にとってまさに歴史的な一戦となる。そして、もし米国開催になったとして……名高いタイムズスクエアにゴロフキンと村田のビルボードが飾られるようなことになれば、それは何とも痛快ではないか。
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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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