届かなかった1点…阿部勇樹の悔恨=ナビスコ杯に特別な思いも、優勝ならず

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三列目からの飛び出しで脅威を与える

攻守ともに奮闘したが、自身3度目のナビスコ杯制覇とはならなかった 【Getty Images】

 そして迎えた決勝。ボランチで出場した阿部は、前半から攻守にわたってチームを掌握し、流れを浦和に引き寄せた。守備では両サイドの攻め上がりをカバーし、攻撃に移ると持ち味の正確なキックや後方からの攻め上がりでチャンスを作った。柏の近藤直也は「三列目からの飛び出しはやっかいでした。あれをもっとやられていたら危なかったと思います」と語り、栗澤僚一も「阿部選手が持った時に奪いに行きたかったんですけど、飛び込んでドリブルやパスをされたらスペースを空けてしまうことになる。そこは意識をしました」と、警戒していたことを明かした。

 しかし、70分のシュートミスは痛恨だった。中央でボールを持った阿部が左サイドの原口元気に展開。原口がドリブル突破からグラウンダーで折り返すと、攻め上がった阿部がダイレクトでシュートを放ったが、ボールは無常にもゴール上に外れた。「自分でシュートを浮かす選択をしたので仕方ないです。ただ、あれが決まっていればという気持ちはあります。ああいうのを決めるか決めないで勝敗は分かれる。悔しいという気持ちしかないです」。試合後、このシーンについて聞かれた阿部は、唇をかんだ。

 その後、阿部が攻め上がるシーンは目に見えて減った。チームが平川忠亮と鈴木啓太をベンチに下げ攻撃的な布陣にシフトしたこともあって、最後方に残り守備をカバーする役割を担っていた。だが皮肉なことに、結果的にこれが柏を楽にしてしまったことも否定できない。近藤が「やっかいだった」と話した三列目からの飛び出しがなくなってしまったからだ。前線で待っている選手をマークするのはそれほど難しくはないが、後方から上がってくる選手はどうしても見逃してしまうことがある。阿部がつかんだ絶好機も、ハーフウェーライン近くから走り込んできたことで生まれたものだった。結局、猛攻は実らず、浦和は柏の勝負強さの前に涙をのんだ。

この悔しさを今後の原動力に

 自身3度目となるナビスコ杯制覇はならなかった。しかし、下を向いてばかりもいられない。残り4試合となったリーグ戦は現在首位の横浜F・マリノスと勝ち点2差の2位。07年以来となるJ1制覇も現実味を帯びている。32歳となった阿部だが、いまだキャリアを通じて、リーグ優勝を経験したことがない。是が非でもほしいタイトルだろう。

「今日みたいな緊張感がある試合があと4つ続くんですけど、ナビスコ杯で負けたからと言って気持ちが切れてはいけないし、この悔しい気持ちをリーグ戦にぶつけて、今日かなえることができなかった優勝をリーグ戦で実現できればいい。もちろん今回の敗戦をすぐに受け入れるのは難しい。でも試合は待ってくれないし、来週(10日)にはさっそくリーグ戦がある(ベガルタ仙台戦)。チーム一丸となっていくことが大事だと思います」

 この日味わった悔しさをどこにぶつけるのか。阿部が言うには、同じ舞台で同じ相手に勝たない限り、決して忘れることはできないのだそうだ。ナビスコ杯決勝で柏に勝つ日が訪れるかは分からないが、ここで味わった悔しさは今後の阿部を突き動かしていく原動力となるのは間違いないだろう。

「ぶれずに自分たちの戦いをやっていくべきだし、それをやっていれば結果が付いてくると信じています。この悔しさを忘れず、今後のリーグ戦を頑張っていきたいです」

 受け止めがたい現実も、時がたてば良い経験になることがある。もし浦和がリーグ制覇を成し遂げたとしたら、阿部にとってこの敗戦は必ず意義のあるものに変わることだろう。

<了>

(文・大橋護良/スポーツナビ)

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