上原と田沢 地元で語り継がれる英雄伝説=数十年後も消えない鮮やかな記憶の遺産

杉浦大介

日本人2人、最下位チームを世界の頂点へ導いた

日本人2人の投手が昨季最下位チームを世界の頂点へと導いた 【写真は共同】

 もちろん、2007年以来の世界一に輝いたレッドソックスの中で、上原、田沢だけが最高殊勲デュオだなどと言いたいわけではない。
 ワールドシリーズの間には主砲デビッド・オルティスが打率.688の驚異的な打棒で中軸となり、左腕ジョン・レスターが2戦2勝(防御率0.59)でエース役を果たした。さらに、第4戦で逆転3ランを放ったジョニー・ゴームス、第5戦で決勝の二塁打を打ったデビッド・ロス、遊撃手としてたびたびの好守で投手を助けたスティーブン・ドリュー……しかし、“全員野球”という使い古された表現が相応しいレッドソックスの中でも、ブルペンの要となった2人が絶対不可欠の存在だったことに誰も異論の余地はないのではないか。

「(地元の)声援が力になってますから。本当にありがたいことだし、一緒に喜べることは嬉しいことですね」
 上原は笑顔でそう語ったが、“ありがたい”とより強く感じているのはむしろレッドソックスファンの方かもしれない。

 タイプの違う2人のジャパニーズは、絶体絶命の危機にも顔色変えずマウンドに立ち、1人は豪速球を投げ込み、もう1人は切れ味鋭いスプリッターを操り、相手のスラッガーをきりきり舞いさせた。身も凍るような終盤イニングを支配し、昨季は最下位に低迷した愛する地元チームを世界の頂点に導いてくれた。
 伝統のフェンウェイパークで栄冠を祝った直後、2人は「まだ実感はない」と口を揃えた。しかし、上原も、田沢も、自分たちのやったことの重大さに徐々に気付くだろう。10年後も、20年後も、30年後も、何度でも呼び出されてその働きを讃えられるだろう。

 階段を上がり続けた2人の日本人投手は、レッドソックスを何よりも愛するボストニアンに優勝パーティのチケットを送り届けた。それと同時に、数十年後まで消えないあろう鮮やかな記憶の遺産をプレゼントしたのである。

<了>

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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