巨人に残る川上哲治氏の功績と存在感=篠塚和典「目標であり意識し続けたV9」
巨人黄金期を築いた川上氏が打ち立てた数々の功績はこれからも巨人の中に生き続けていく 【写真は共同】
川上氏は1938年に熊本工高から巨人に入団。プロでは赤バットを使用していたことからトレードマークとなり、戦前、戦後のプロ野球界を盛り上げた。さらに卓越した打力で、首位打者5回、本塁打王2回、打点王3回、最優秀選手3回を獲得。日本人選手初の2000安打も達成するなど、「打撃の神様」と言われた。通算成績は18年間で1979試合、2351安打、181本塁打、1319打点、打率3割1分3厘だった。
また、現役引退後の61年に巨人監督に就任すると、長嶋茂雄氏や王貞治氏らを擁し65〜73年まで日本一に9年連続で輝き、巨人の黄金時代を築いた。
スポーツナビでは、巨人OBで、現役時代、日本人選手として51年の川上氏(3割7分7厘)に次ぐ歴代2位の記録、3割5分7厘で首位打者を獲得した篠塚和典氏に、川上氏との思い出や巨人の選手にとっての川上氏の存在などについて語ってもらった。
川上氏は「近寄り難いオーラがあった」
今日は仕事で神宮球場に行っていたので、そこで聞きました。具合が悪いのは聞いていましたが、非常に残念です。
――川上氏との思い出はありますか?
私が巨人に入団する前から「川上監督」というのは名監督で、神様でしたので、近寄り難いオーラがありました。われわれの頃は、まだV9時代の選手が残っていましたので、長嶋監督や王さんらV9の選手は、川上さんがグラウンドにいらっしゃれば、和気あいあいとおしゃべりをしていましたが、私はまだ若造でしたし、その中に入ることはできませんでした。川上さんはそれほど畏敬の存在でした。
――川上氏と交わした言葉で印象に残っていることはありますか?
私は、あまりじっくりとお話したことはありませんでしたし、他愛もない一言、二言くらいでした。主には励ましの言葉です。バッティングを見ながら、「調子良いな」といった言葉をいただきました。川上さんとお会いするときは割と調子が良い時でしたので、褒めていただいたことが多いですね。いま考えると、月並みな言葉でしたが、私にとっては励みになるお言葉でした。
――篠塚さんは、川上氏に次ぐ高打率で首位打者を獲得しましたが、タイトル獲得の際には何か言葉をもらいましたか?
OB会で記念のバットをもらいまして、その時に「おめでとう」という言葉をいただきました。
一言だったですが、巨人の偉大な名監督である川上さんからの祝福の言葉でしたので、巨人らしいプレー、また首位打者を獲得できるように頑張らなくては、と思いましたね。
「川上さんは選手たちの自主性に任せていた」
川上さんの後を受けた長嶋監督のプレッシャーは推し量ることができません。相当なプレッシャーだったと思いますよ。われわれ選手も、50〜55年くらいまでV9時代の選手もいましたが、世代交代の時期だったので、長嶋監督の中でももう一度、黄金期を築ける選手をつくらないと、という思いが強かったと思います。
そういう思いが、あの伊東キャンプにつながっていったと思います。川上さんの後を引き継ぐに恥ずかしくないチームにしなければいけないという思いは、選手のわれわれにも伝わっていました。私たちも「V9の選手たちがいなくなったら巨人どうなるんだろう?」という気持ちもありましたので。
――篠塚さんが聞いた、「川上監督」とはどんな監督だったのでしょうか?
どんな局面であっても絶対に慌てず、ベンチでドシッとして、焦ったり気持ちを表に出したりするような仕草を見せなかったと聞いています。
――伝え聞く逸話はありますか?
監督時代には、キャンプの際、どこかいなくなったと思ったら、釣りに出掛けていたということがあったようです。V9時代は、選手たちが何も言わなくても、練習をしていたようですし、皆さんレベルの高い方々でしたし、選手たちの自主性に任せていたようですね。
「巨人軍は常に強くあれ」を言わせた川上氏の存在
巨人の強さをつくってきた監督ですし、私も長嶋監督、王監督、藤田(元司)監督の下でプレーしましたが、「V9」というのは常に語られてきました。御三方ともV9を目指して監督をされてきていたと思います。私たちが巨人で野球をやっている以上、連覇というのは目標であり、意識し続けたものでした。
「巨人軍は常に強くあれ」と正力松太郎さんが遺訓として残しましたが、その言葉を言わせたのが川上さんの功績だったと思いますね。
巨人の選手にとっては、本当に雲の上の存在。神様でした。
――川上氏が築いたV9というのは巨人にとって、これまでも、これからも偉大な功績であり、目標なんですね。
そうですね、偉大な功績ですね。それを打ち立てた人ですので、アマチュアやメジャーリーグまで、監督はたくさんいますが、「最高の監督だった」と言えると思いますね。
<了>
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