アマNo.1投手、吉田一将のブレない強さ=高校の悔しさバネに身につけた“制球力”

中島大輔

図抜けたメンタルの安定感

今ドラフトの目玉のひとり、吉田の最大の武器は制球力。高校、大学と無名だった男は社会人で、プロのスカウトが賞賛するほどの制球力を身につけた 【写真は共同】

 191センチの長身から右腕をしならせ、最速148キロのストレートとスライダー、チェンジアップを両コーナーの絶妙なコースに投げ分ける。右バッターの内角を攻めるのが得意だが、好調時はあえて外角だけを使って凡打の山を築くこともできる。普段と異なる攻め方をすることで、相手打者を惑わし、術中にはめていくのだ。

 そうした技術を誇るJR東日本の吉田一将は、2013年ドラフト会議の目玉のひとりと評価されている。「完成度が高い」「穴が無い」「抜群の安定感」……。吉田の記事を読む度にスカウトの称賛を目にするが、本人が最もうれしいのは「コントロールが良い」だという。その制球力こそ、吉田が誇る最大の武器だ。

 コントロールは投手に求められる要素で極めて重要なものだが、どうすれば伸ばすことができるのだろうか。11年に社会人ナンバーワンを決める都市対抗野球で初優勝を飾り、吉田を2年間指導してきたJR東日本の堀井哲也監督が興味深い話をしていた。
「ボールをコントロールしようと思ったら、自分をコントロールしないとできません。相手から逃げる気持ちやストライクがほしいという色気が、コントロールの乱れにつながっていきます。それを含めて技術。そういった意味でボールをコントロールできるようになるには、日々、いかにして積み重ねていくかだと思います」

 堀井監督は過去、11年に埼玉西武の単独指名を受けた十亀剣、07年の大学・社会人ドラフトで横浜(現横浜DeNA)に入団した小林太志、三菱自動車岡崎から99年にオリックスへ進んだ山口和男と3人のドラフト1位投手を輩出してきた。彼らと比べ、吉田は特別な才能を備えているという。
「メンタルの安定感が図抜けています。ブレない強さを持っていて、目標に向けてコツコツと努力していくことができる。好きな野球をしているとはいえ、普通は毎日行っていると、ムラが出てくるんですね。でも、吉田にはそれがない。『彼をそうさせるものは何なのだろう?』といつも思っています」

スポットライトと無縁だった高校、大学

 吉田を突き動かすのは、「心配性」の性格だ。
「しっかり練習して、なるべく不安を取り消してマウンドに上がりたいという思いはありますね。今は結果も出ていますし、ある程度の評価をもらって充実しています。ホント、試合で投げられるのがうれしいんですよ。高校、大学の頃はよくケガをして、全然結果も出ず、悔しい思いをしていました」

 高校、大学とスポットライトと無縁だった右腕にとって、アマチュアトップレベルまで駆け上がった原点は高校野球の聖地にある。憧れだった甲子園のマウンドは、吉田には近くて遠い場所だった。
 進学した青森山田高は06年から2大会連続で夏の全国大会に進んだ一方、吉田には出場機会が1度も訪れなかった。いずれも右ヒジに痛みを抱えたまま青森大会に臨み、甲子園ではベンチ入りメンバーに登録されたものの、ブルペンに入ることさえできなかった。奈良県から野球留学した高校3年間で、公式戦で投げたのは計10イニング未満。「何もできなかった」という不完全燃焼感だけが、球児の胸に刻み込まれた。

 日本大では2年春に東都リーグ2部でデビューを飾ったが、夏に故障し、秋は登板なしに終わった。しかしその後、肩と肘のケアに細心の注意を払うようになり、以降は1度も大きなケガをしていない。3年春から出場機会を得るようになり、秋を迎えた頃には「相手を抑えるパターンができ、ようやく先が見えてきた」とプロへの道を意識し始めた。4年春に2部の最優秀投手賞に輝くと、秋に初挑戦した東都1部では3勝をマーク。チームを1部残留に導き、自身はJR東日本に進んだ。
 だが、どこかで限界を感じる自分もいた。実際、当時の吉田がJR東日本から受けていた評価は「将来性」だ。堀井監督は駒澤大の白崎勇気を「即戦力」として獲得し、「誰か、もうひとり」と吉田に白羽の矢を立てた。堀井の吉田評は、「3、4年して芽が出れば、プロ入りもあるかな」というものだった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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