田沢vs.最強打者、V勝敗分けた3番勝負=上原との勝利の方程式は計り知れない価値

杉浦大介

上原はMLB最新の“センセーション”

ア・リーグ優勝を引き寄せたレッドソックスの上原(右)と田沢、文句なしの働きを見せた 【写真は共同】

「MVP! MVP! MVP!」
 米国時間10月19日に行なわれたア・リーグ優勝決定シリーズ第6戦、9回表――。1死となったところで、マウンドに立ったレッドソックスの上原浩治に向けてフェンウェイパークを埋め尽くしたファンから大コールが送られた。
 セレモニーなどでの予定調和のオベーションも悪くはないが、自然発生の歓声はより感動的なもの。複数の人間の抑え切れない歓喜と感謝の想いが、一丸のコールに姿を変えて沸き上がって来る。今回のプレーオフ中、そんなヒーロー扱いを受けるのに上原以上に相応しい選手はいなかったのだろう。

「(マウンドに行くまでの緊張感は)今までと変わらなかったですけど、マウンドに立ったときの声援は大きかった。やっぱり勝たないといけないというプレッシャーもあったんで」
 5対2でタイガースを下し、4勝2敗でシリーズ勝利を決めた第6戦後、上原は栄冠のマウンドをそう振り返った。表彰式の壇上で残した「吐きそうだった」という言葉からも明らかな通り、重圧は尋常なものではなかったのだろう。

 しかし、異様な雰囲気の中で残した結果は群を抜いている。シリーズの6試合中5試合でボストンを背負ってマウンドに立ち、1勝0敗3セーブ、6イニングを投げて4安打、無四球、無失点とほぼ完璧。分岐点となった第5戦で、8回1死から登場して5つのアウトを稼いだ値千金のセーブも燦然と光る。
 極度のプレッシャー下での出色のピッチングを、目の肥えたボストニアンも大歓声という分かり易い形で讃えた。多くの選手が何らかの形で活躍したシリーズ中でもその貢献度は際立ち、ファンが望む通りにMVP獲得。速球とスプリッターを自在に操るコウジ・ウエハラの名は全国区となり、もはやMLB最新の“センセーション”と呼んでも大げさではないのだろう。

強打者相手のマウンド、田沢の際立つ働き

 ア・リーグを代表するパワーハウス同士が正面からぶつかり合ったALCSは、実にハイレベルで見応えのある激闘となった。
 レッドソックス打線が9回1死まで無安打に抑え込まれた第1戦、8回裏にデビッド・オルティスの劇的同点満塁弾という歴史的一発が生まれた第2戦、ジョン・ラッキーがジャスティン・バーランダーに投げ勝った第3戦、タイガース打線がようやく目を覚ました第4戦、終盤イニングに再び1点を巡る熾烈な攻防が繰り広げられた第5戦、そして……

 今思い返せばほとんど信じられないが、第2戦でオルティスの起死回生の同点グランドスラムが飛び出すまでは完全にタイガースペースだった。しかし、主砲の一発で総力シリーズに火が付き、結局は4試合が1点差ゲームという大接戦の連続。第6戦の7回裏にシェーン・ビクトリーノが放った逆転満塁弾がドラマについに終止符を打ち、この2本のグランドスラムこそがシリーズの象徴的なシーンとして人々の記憶に刻まれて行くのだろう。

 ただ、勝負を分けたポイントとして、レッドソックスのブルペン全体の見事な働きも忘れるべきではない。前述した上原の活躍だけでなく、田沢純一、クレイグ・ブレスローを中心としたリリーフ投手陣は合計21イニングでわずか1失点のみ。特に地区シリーズのレイズ戦同様、終盤イニングの重要な場面で強打者相手のマウンドを任され続けた田沢の好投は際立った。
 第3、5、6戦でタイガースの最強打者ミゲール・カブレラといずれも得点圏に走者を置いた状況で対戦し、3打数無安打、1三振。その3戦ともにレッドソックスが勝利したことは偶然のはずもない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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