リコ・ベホーベン、親友対決制してヘビー級王座奪取=GLORYシカゴ大会結果リポート

遠藤文康

シカゴ大会、国家デフォルトの土壇場で客足伸びず

ヘビー級トーナメント決勝で親友のダニエル・ギタを破って、王座に輝いたリコ・ベホーベン(左) 【Glory Sports】

 グローリー全米縦断の第2戦はシカゴ大会。キックファンにとっては見慣れた顔ぶれが揃った大会だが、シカゴのアメリカ人にとっては感情移入しやすい選手はおそらく誰もいない大会だったろうと思われる。1万2000人収容のアリーナを半分に仕切っての開催だったが、事前情報ではチケットの伸びも芳しいものではなかったようだ。
 国家としてのアメリカが10月17日に財政破綻になるかどうかの瀬戸際という状態でもあり、いわゆる国家デフォルト(債務不履行)になるかどうかの土壇場であり、偶然にも開催地シカゴはオバマ大統領の地盤でもあり、楽しくキック観戦という気持ちではないのかもしれない。
 今のアメリカは政府支給のフードスタンプ(低所得者向けに行われている食料費補助対策)生活者が5000万人に及ぶ。失業者が5000万人なのだ。人口3億で5000万人の失業者。失業率16%は尋常ではない。このような状況下では人々の財布の紐が厳しくなるのは仕方がない。オランダの格闘技サイトの書き込みには「アメリカでのビジネスを止めて速やかにヨーロッパに戻ってこい。アメリカで続けてもグローリーは失敗するぞ」という書き込みも出てきている。それを受けて「ヨーロッパに限らずトルコもいいぞ。トルコはグローリー大歓迎だ」と応じた者もいる。

V候補サキを破ったリコ!決勝でもギタを攻め抜く

 ともあれ、今大会の目玉はヘビー級トーナメント。セーム・シュルトが心臓疾患による突然の現役引退を余儀なくされたことでトップが空白となっているヘビー級の席に誰が座るのかを決める戦いだ。下馬評ではグーカン・サキ。グローリーの一押しで本人も期待を一身に受けて自分こそが次のヘビー級王者だと確信していた。「アメリカ全土にグーカン・サキを知らしめたい」と大いなる希望も語っていた。試合前から意気込みは凄まじく爆弾小僧のようにパワー全開な出だしだったものの、何と結果は初戦敗退という想定外のできごとに茫然自失でリングを降りたサキだった。五分の実力ならば勝負は天運こそが重要で、今日のその勝利の運はリコ・ベホーベンの背中にしっかりと乗っていたようだ。

 計量時の表情で、もしかしたらリコがやるかな、とふと思った。リコの顔はこの2年で随分と変わった。格闘家の顔立ちになってきた。身長もあり筋肉質の綺麗な体型はキックボクサーとして好ましい。2012年にエロル・スィンメルマンにフック5連発を浴びてクビがひん曲がるようなKO負けを喫したリコ。しかしそれ以後のリコは吹っ切れたように動きが軽くなり、負けを怖れなくなったというか、伸び伸びとし始めた。

 決勝でのダニエル・ギタ戦は組み合わせのときからリコは想定していたはずだ。しかしギタはサキが来るだろうと予測していただろう。この予測の違いは覚悟の差として決勝で微妙な影響を与えた。というのも両者は親友だからだ。リコはスーパープロジム生え抜き選手であり100キロほど離れたギタが所属するカマクラ道場にときどき出稽古に出かけている。リコとギタは激しいスパーリングをしている。互いの手の内は分かっている。当たりの強さも出方も何もかも身体が承知している。会場ではギタへの声援が多い。おそらくシカゴにはルーマニア移民が多いのだろう。知り尽くした仲だからこそ出だしは慎重だった。一発を持つギタのパンチをまともに浴びれば試合は終わる。やり辛い気持ちはともにあったろうがガードを固めたリコが中盤から攻めた。先に先に手数を出して押して行った。ギタはいつもの動きができずパンチも上手く決まらない。先に精神的なやり辛さを吹っ切っていたリコが主導権を握り最後まで攻め抜いた。ギタは出遅れ、流れを作れなかった。気持ちの用意が不十分だった。賞金2000万円は、判定3−0(29−28、29−28、29−28)でリコの元に行った。

主催者の思惑を超える王者たち

 グローリーの思惑を超えて王者に座る者が決まっていく。ライトヘビーでタイロン・スポーンの優勝は順当だが、グローリーとしては身内のフィリップ・フェルリンデンに期待をかけていた節もあった。ロス大会ミドル級ではアメリカ人王者(ジョー・シリング)が誕生。これはこれで良好な結果だ。しかし今回のヘビー級ではサキの優勝は重要だった。自分たちのマネージメント選手を王者にしたいのは当然だ。しかしその当てが完全に外れてしまった。11月の70kgトーナメントではロビン・ファン・ロスマーレンの優勝をグローリーは期待している。しかしジョルジオ・ペトロシアンの牙城がそんな簡単なものだろうか? 12月の77kgトーナメントではニキー・ホルツケンを狙っている。今回のジョセフ・ヴァルテリーニやカリム・ガイジの動きを見ているとこれまた簡単ではないだろう。おそらくグローリーの目論見は全て外れる可能性がかなり高い。

 日本大会以後。来年度のスケジュールは未発表だ。トーナメント戦で布陣を揃えたら何をテーマにグローリーは今後を進めて行くのだろう。発表が楽しみだ。

次ページにシカゴ大会の試合結果・戦評

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