日本一のショート宮本慎也に感謝を込めて〜燕軍戦記2013〜VOL.7

菊田康彦

最後はショートストップとして

現役最後はこだわりの「2番・ショート」、名手健在・宮本慎也 【ヤクルト球団】

「♪シンヤのショートは日本一」
 懐かしい歌声が夜空にこだました。10月4日、神宮球場。この試合を最後に19年間の現役生活にピリオドを打つ東京ヤクルトの背番号6、宮本慎也が打席に入ると、スタンドはファンが掲げた特製応援ボードで見渡す限り緑一色に染まり、右中間席には「6」の人文字が鮮やかに浮かび上がる。ライトスタンドに陣取る私設応援団『ツバメ軍団』のリードでファンが声をそろえて歌う宮本の応援歌は耳慣れたいつもの歌詞ではなく、まだ遊撃手としてダイヤモンドを駆け巡っていた頃のものに変わっていた。

「次にショートを守るのは引退試合だと思います」
 6度のゴールデングラブ賞に輝いたショートから、新たにサードに定位置を移して以降、宮本はしばしばそう口にしていた。葛藤を抱えながらもチームのためを思って転向を受け入れ、愛着あるショートへの未練をキッパリと封印。新たなポジションでもゴールデングラブ賞を4度獲得した。チーム事情で試合途中からショートに入ることはあったが、高田繁前監督時代の2010年5月21日の千葉ロッテ戦(千葉マリン)を最後に、遊撃手として先発出場することはなかった。

 だが今年8月26日、現役引退を発表。今シーズンの神宮球場最終戦となる10月4日の阪神戦が「引退試合」に決まると、かねてから口にしてきたことにこだわった。
「ショートでの出場を(小川淳司)監督さんにお願いしています。今まであまりわがままを言ってきたつもりはないので、最後くらいはいいかなぁって」
 やはり最後はショートストップとして終わりたかった。

07年古田以来、引退試合は前売り完売

 この日のチケットは引退試合決定直後に早々と完売していた。ヤクルトの選手の引退試合で前売り完売は、2007年の古田敦也以来のことだろう。同じように超満員の観客で埋まった先代の遊撃手、池山隆寛(現打撃コーチ)の引退試合で「こういう人がこれだけのお客さんを呼ぶんだなぁと思った」という宮本が、それから11年経って自身の引退試合に詰めかけた3万人超の観衆の前で、およそ3年5カ月ぶりにまっさらなショートのポジションに就く。午後6時、ラストステージの幕が上がった。

 先制したのは阪神だった。4回表、2死一、三塁から森田一成が打った三遊間のゴロが、バックハンドで捕りにいった宮本のグラブをはじく。記録は内野安打だったが、試合後に「待って捕ればよかった」と悔やんでみせたあたりが名手・宮本らしかった。この回に2点を失いながらも、ヤクルトは6回裏にウラディミール・バレンティンの60号2ランで試合を振り出しに戻す。
「宮本選手の最後のゲーム、シンヤのためにもホームランを打つことができてよかった」
 今シーズン、年間最多ホームラン新記録樹立で時の人となった助っ人も、この試合の意味をイヤというほど理解していた。

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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