日本“F1”の未来=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第14回

赤井邦彦/AUTOSPORTweb

懐古主義からの脱却

中嶋悟や鈴木亜久里が偉大なドライバーであり、彼らの存在が、日本にF1が根付くための大きなひとつの要因になったのは間違いない。しかし、いつまでも彼らに頼るのではなく、もっと未来に目を向けた報道を、我々はしていかなければならない 【LAT Photographic】

 前へ進もう!

 どこかにいつか書いた気がするが、もう一度この「見聞録」にも書かせていただく。日本GPに関する懐古主義跋扈(ばっこ)に対するウンザリ感の増幅を抑えられないからだ。

 今週末に迫ったF1日本GPに向けて、いくつかのメディアが特集を組んでいる。日本のチームも日本人ドライバーも不在の今年、記事作りに苦労している様が見て取れる。もちろん、それがいかに大変かは理解できる。ただ、多くのメディアが過去に焦点を当てる記事を掲載している点に、「他に特集の組み方があっただろうが!」と、突っかかりたくもなる。

 鈴鹿F1の25周年記念とはいえ、相変わらず中嶋悟、鈴木亜久里、アイルトン・セナ……のオンパレードだ。懐古主義というか、まったく未来を見ていない。これではわが国のモータースポーツに(というかF1に)未来はないと言われても、返す言葉がないだろう。

日本にF1が根付いたのは彼らのおかげ。でも……

 もちろん、中嶋悟や鈴木亜久里を否定するものではない。彼らは日本のF1のパイオニアであり、彼らの活躍があったからこそF1は日本に根付いたと言えるのだが、それにしても毎年日本GPがやって来ると引っ張り出される彼らもいい迷惑ではなかろうか。そして、彼らに聞くのは「当時はどうでした?」とか、「表彰台に上った時の気分は?」とか、「当時と今のF1の違いは?」とか、同じ話の蒸し返しだ。この傾向はメディアだけではない。日本GPにも中嶋悟が来場し、親子対談や昔のF1マシンのデモランをするという。

 もうそろそろ中嶋悟や鈴木亜久里には休んでもらったらどうだろう? どうしても出て来てほしいなら、表彰台の優勝者へのインタビュアーでも務めてもらった方がよほど受けが良いのではないだろうか? しかも、その映像は世界に向けて発信される。ああ、日本にも素晴らしいF1ドライバーがいたのだ、と世界中のF1ファンは改めて感激するはずだ。

この国の未来の“エフワン”報道

 ねえ、そろそろ過去に生かしてもらうことを止めませんか? あるいは、過去でメシを食うことは止めませんか? 日本のF1にも未来があるということを、世界に向けて発信してもいいんじゃないですか? ヨーロッパでF1を目指して頑張る若い日本人ドライバーや、これから出て来る新しいホンダF1のエンジニア、そうした夢を持った人達や夢そのものにも、もっとスポットライトを当てて、日本のファンや世界に向けて発信しませんか?

 まあ、自身モータースポーツの報道に関わっている者として、敢えて後輩たちに苦言を呈したのだが、実際、「過去はもういい、俺たちが新しいモータースポーツの報道を作る!」という肝の据わった編集者やライターに出て来て欲しい。それも、海外のメディアの記事の焼き直しではなく、日本人メディアの独自の目で切り開いた記事を期待する。老人メディアはそろそろ引退だ!

<了>

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著者プロフィール

赤井邦彦:世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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