日菜太、世界を驚かせる衝撃TKO勝利=GLORYロス大会リポート

遠藤文康

圧巻の3RTKOでグローリー初勝利を飾った日菜太 【Glory Sports】

「GLORY 10」が現地時間28日、米国カリフォルニア州ロサンゼルスのシチズンス・ビジネス・バンク・アリーナで開催され、日本からREBELS 70kg級王者・日菜太と、RISEヘビー級王者・清水賢吾が出場した。

 今年度下半期のグローリーは今大会を含め3大会続けてアメリカで開催する。西海岸ロサンゼルスから始まり中央部シカゴを通り最後は東海岸ニューヨークで締める全米横断だ。K−1が新旧ともに定着に失敗し、イッツ・ショウタイムは開催にこぎつけることができなかったアメリカ。キックボクシングが国民の間で認知されてないアメリカで、スポーツ文化としてキックを定着させることができるのかどうか、その試金石大会が続くのだ。

初のアメリカ人王者誕生で悲願の全米制覇へ前進

 今大会「グローリー10」の目玉はミドル級85kgの初代王者をトーナメントで決める戦いだ。そしてその王者に、この手の大きいキック大会では恐らくほぼ初めてであろうアメリカ人王者が誕生したのだ。まして決勝がロシアとの米露対決となりまさに国際政治を彷彿とさせる構図に会場は否が応でも盛り上がった。結果はダウンを2回奪って地元ロサンゼルス出身のジョー・シリングが王者に就任した。

 アメリカではアメリカ人王者がいることが競技では重たい意味を持つ。アメリカ人トップがいないと感情移入が難しいのだ。今でこそ競技として定着しているUFCも93年開催時はオランダからのゴルドー以外はほぼ全てがアメリカ在住者による、いわゆる異種格闘技戦だった。長年の努力で定着した今でこそ誰が王者であろうが強者であれば認知されるようになっているが定着までには行政との軋轢(あつれき)による突然の会場変更など過酷な大会運営を強いられた歴史がUFCにはある。それらを乗り越えての今のUFCなのだ。
 キックボクシングはアメリカでは全くまだその域には達していない。グローリーはその困難の道を進んでいるわけで、だからこそ今回のアメリカ人王者誕生にはグローリー役員のマーカス・ルア氏が『我々グローリーの悲願だったアメリカ人王者が誕生しました。これで全米制覇の大きな足がかりができました』と手放しで興奮し喜んでいる。
 このことは今後もグローリーの大きなテーマなのでここでは横に置いておく。

自分自身にリベンジを果たした日菜太

ペトロシアン戦からの2年間のうっぷんを晴らすかのような歓喜の雄たけび 【Glory Sports】

 今大会を振り返っての意義。語弊を怖れずに敢えて書かせてもらうなら、グローリーの今大会はまさに日菜太のために用意されたものであったと言って過言ではないだろうと思う。
「MVPは誰か?」と問われれば日菜太と答える人は多いだろう。オランダの格闘技サイトには『ヒナタのあの左キック。ハンパねえ。スゲー』と驚きのコメントが書き込まれている。テレビコメンテーターも日菜太の攻撃を絶賛していた。
 振り返れば日菜太にとって2011年7月のペトロシアン戦から今日までの2年間は精神的苦闘の2年間だった。特に12年1月の海外大舞台となるイッツ・ショウタイムでのアンディ・リスティ戦でのボロ雑巾のような敗北。どん底に落ちた瞬間だった。
 己を省みる中で日菜太は何を思い何を考え何に取り組み何に呻吟(しんぎん)しただろう。このまま国内強者として終わるか。それとも世界へのし上がるか。深い苦悩とともに手探りの中で心身の鍛錬を続けていたはずだ。あの山本真弘もギリシャでの敗北から2年かけてまさにリベンジを果たした。それと同様に、日菜太もグローリーの舞台でこの2年の己の来し方に始末をつけた。

 試合中の日菜太は鬼神となった。ここで負ければもはや世界とは無縁となることなど本人が誰より分かっている。背水の陣と緊張感の中で不思議と研ぎ澄まされた透明な表情の日菜太がリング上にいた。浮かれた気持ちなど微塵もない姿たたずまい。ファヴォが日菜太を研究し蹴りを避けパンチ勝負に来ることは当然のこと。開始早々圧力をかけ攻め来るものの日菜太は落ち着いて右ジャブで対処し、一瞬の隙をついて乾坤一擲のバックブローをファヴォの顔面に決めた。この一発でファヴォは容易に中に入れなくなった。
 その後は左ローと左ミドルで日菜太はファヴォを自由自在に痛めつけ木っ端微塵に粉砕した。体を何度もくの字に曲げ、最後は激痛に顔を歪め、頭を抱えながら自軍コーナーに嫌倒れで屁垂れ込んだファヴォ。レフェリーストップとセコンドからのタオル投入はほぼ同時だった。
 圧力を弾き返して叩き潰すかのように攻め抜いた日菜太は相手の心をへし折った。そこにいたのは『殺し』を披露したキラー日菜太だった。右手を上げて勝利をアピール。はしゃぐことなく押さえ気味の態度がいい。コーチ山口元気と目を交わしロープに上がって大きく咆哮。ライト級の山本に続きミドル級の日菜太も自分自身にリベンジを果たした。まさにこの2年の苦闘苦衷があったればこそのリベンジ。何の苦悩も経ない人間に何の魅力があろうか。日菜太はこれまでの日菜太とは違う。大変貌を遂げている。今後はリスティやステフェルマンスそれにオプスタルなど、きっちりとケリをつけさせてもらいたい相手には事欠かない。日菜太はグローリーで面白い立ち位置になった。 

「グローリー10」結果

必殺の左ミドルで体をくの字にさせ心もへし折った 【Glory Sports】

9月28日(現地時間)米国カリフォルニア州ロサンゼルス シチズンズ・ビジネス・バンク・アリーナ

<ライト級70kg>
○日菜太(日本)
(3R0分48秒 TKO※タオル投入)
●ジョアン・ファヴォ(フランス)

 見事な戦いだった。苦しい2年間だったろう。どん底から這い上がってきた男の爆発的な戦いを見事に披露してくれた。今後、大飛躍する転換の試合となったことは間違いないだろう。今大会MVPといってもいい試合だった。

<ライト級70kg>
○KY・ホレンベック(イギリス)
(判定)
●アルバート・クラウス(オランダ)

 クラウスの動きが鈍い。調整ミスか? 年齢か? ホレンベックに終始リードされクラウスは全くいいところなく負けた。『アメリカは初めて行くので自分の全てを見せたい』と意気込んでいたのだが、試合後は『まるで自分ではなかった。頭が真っ白になってしまった。どうしてあんな試合になったのか分からない』と。十分な実績のあるベテランでもこういうことがあるのだろう。年齢のせい、とはまだ言えないようだ。

<ライト級70kg>
○アンディ・リスティ(スリナム)
(判定)
●ニコラス・ラーセン(デンマーク)

『KO狙いだったけど難しかった。彼はきっと伸びるよ』勝利後のリスティが語った。

<ライト級70kg>
○ロビン・ファン・ロスマレン(オランダ)
(判定)
●シェムシ・ベキリ(スイス)

 ベキリの力強い攻撃にロスマレンは平然とした表情でほとんど動ぜず。逆にロスマレンの反撃ローにベキリは体ごと持って行かれた。効いてないよポーズを何度も繰り返すベキリは見苦しい。11月ニューヨーク開催でのグローリーライト級70kgトーナメントへ向けロスマレンはペトロシアンへのリベンジをリング上で宣言した。

<ライト級70kg>
○ダヴィト・キリア(グルジア)
(判定)
●ムルテル・フルンハルト(蘭)

 ガードを固めて相手との距離を潰してパンチで攻め込むキリア。ロングレンジ攻撃からヒザを繰り出したいフルンハルトを封じたキリアが自分の流れを作った。

ミドル級トーナメントに出場した清水賢吾だったが準決勝で敗退 【Glory Sports】

<ミドル級85kgトーナメント決勝>
○ジョー・シリング(米国)
(延長4R判定)
●アルテム・レヴィン(ロシア)

 序盤はレヴィン。2Rにスーパーマンパンチでダウンを奪ったシリング。終盤は守りに入ったシリングをレヴィンが追う展開。ダウンを奪って勝利をつかみかけたシリングは逃げに入ったため延長戦となった。しかしレヴィンの右ローに合わせ大きな右フックを決めたシリングが再びダウンをゲット。初代グローリー王者にアメリカ人のシリングが就任。マーカス・ルア氏は『我々の悲願だったアメリカ人王者の誕生で全米制覇に向けて巨大な足がかりができた』と興奮の口調。

<ミドル級85kgトーナメント準決勝>
○ジョー・シリング(米国)
(判定)
●清水賢吾(日本)

 計量を82kgで終えた清水。シリングは85kgちょうど。ウエイトリカバリー後にリング上で対峙すると一回りシリングがでかい。
 地元の声援を受けがシリングがラフな攻めで押してくる。清水は相手の変則的攻撃にリズムをつかめずとまどった模様。シリングの攻めは粗いので清水にダメージは見られない。
 中盤以後は清水が圧力をかけ前に前に出てシリングを押した。ただし、バックスピン、バックブロー、クリンチからのヒザなど、分かり易い大技を連発し手数でシリングは優勢にすすめた。
 事前にシリングのファイトスタイルを把握しておけば、清水はロー主体に攻略できた可能性は高かったと思われる。
 シリングが決勝へ駒を進めた。

<ミドル級85kgトーナメント準決勝>
○アルテム・レヴィン(ロシア)
(判定)
●ジェイソン・ウィルニス(オランダ)

 ショウタイムのラストエンペラーの85kgがウィルニスで77kgがアルテム・レヴィン。レヴィンが順当に決勝へ。決勝は誰とやりたいかとのリングアナの質問に『アメリカ人との決勝がみんなもいいんだろ?』と観客を喜ばせ挑発した。

<ミドル級85kgトーナメントリザーブ>
○ウェイン・バレット(米国)
(1RKO左右フック)
●ロブ・プロトキン(米国)

<グローリーシリーズ・スーパーファイト ウェルター級77kg>
○カラペト・カラペティアン(アルメニア)
(判定)
●アレクサンダー・ステツレンコ(ロシア)

<ヘビー級>
○ヤハル・ウィルニス(オランダ)
(2RKO右フック)
●ブライス・ギドン(フランス)

<ライトヘビー級95kg>
○ブライアン・コレット(米国)
(判定)
●ランディ・ブレイク(米国)
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