“世界基準”のGKが行う周到な準備=小島伸幸氏が語る89分間の大切さ

鈴木康浩

GKとシューターが織り成す好循環

ベルギーでプレーする川島。小島氏はプレッシャーに押しつぶされない精神力を評価している 【Getty Images】

――これだけのハイレベルなプレーをCL決勝という大舞台で連発しながら、ノイアーはともかく、バイデンフェラーに代表歴がない理由は?

 バイデンフェラーは、ボールセーブについては相当ハイレベルですが、右足のキックに多少の難を抱えている。ビルドアップ時の技術力不足が代表に招集されない理由の一つでしょうね。

――では、ドイツ勢のGKの層の厚さはどこからくるのでしょう

 まずは歴史ある伝統。私の中ではドイツのGKというと、ゼップ・マイヤー、ハラルト・シューマッハという名選手たちが浮かびます。イタリアもジャンルイジ・ブッフォン以前にも、ワルテル・ゼンガやディノ・ゾフという名選手たちがいました。彼らはカテナチオの伝統の中でGKを任された大きな使命があったはずです。ドイツ勢の層の厚さに話を戻せば、単純に180センチ台の選手がたくさんいますから、日本に比べれば圧倒的な絶対数の中からGKを選べる。その上で先程お話ししたようなGKというポジションへのリスペクトがあるから人材に事欠かないわけです。もちろんそんなに大きくなくても、欧州にはビクトール・バルデス(183センチ)のような立派なGKはいるし、スピードや反応速度でカバーすることはできます。

 それともう一つ。良いGKがいるからシューターが育ち、それに対抗するためにさらにGKのプレーが磨かれるという好循環がある。この試合の決勝点はロッベンが決めたものですが、タッチのリズムを変えたドリブルから最後は足首をひねって何とか流し込んだというゴール。そうでもしないと、バイデンフェラーからゴールは奪えないという瞬時の判断があったからだと思います。双方の駆け引きの応酬、そのレベルの高さがあのゴールに凝縮していると言えます。

脂が乗るのは30歳を越えてから

――日本代表の守護神、川島永嗣選手がベルギーリーグでプレーしていますが、彼がさらに上のレベルにいくために必要なことはなんでしょう

 彼は語学が堪能ですから、他の日本人選手と比べて一歩リードしていますね。欧州のGKとも技術の差があるとは思いませんが、ノイアーやブッフォンら世界のトップ3と差があることは確かです。ただ、川島選手は昨季ベルギーリーグの下位のリールスから、優勝争いができる上位クラブのスタンダール・リエージュへ移籍しました。これは大きな前進です。そこでCLなどに出場できればレベルアップにつながります。まあ、私の経験でいえばGKとして脂が乗ってくるのは30歳を越えてからですよ。周りから信頼される人間でなければならないし、プレッシャーに押しつぶされない精神力を備えないと務まらないポジションですが、川島選手はそれを十分に備えています。若い選手で言えば権田選手(FC東京)にも期待はしています。

――では、日本のGKが今後、世界基準に追いつくために必要なことは?

 1つは指導者です。GKを育てる意識を変えないといけない。構え方やキャッチングの技術など初歩的な指導は誰にでもできますが、GKは試合中にやるべき仕事が本当に細かくあるので、そうなるとやはり専門のGKの指導者が常にほしいところ。『今のは行けたんじゃない?』『今のスルーパスは狙っていた?』、そんなふうに声かけをして、選手の判断力を伸ばす指導が必要になります。GKは瞬時の判断を繰り返しながら、質の高い準備ができるかどうかで勝負が決まるポジションだからです。GKが試合中に触れる時間はせいぜい1分程度、残り時間は常にポジショニングの修正と、味方へのコーチングです。このCL決勝のノイアーやバイデンフェラーの数々のプレーを素晴らしかった、面白かった、という感想だけで終わらせることなく、彼らの周到な準備、そこから導き出される高い技術、そして相手との駆け引き、その辺りを詳細に見直してみるのもいいでしょう。世界基準に近づくためのヒントがたくさん詰まっているはずです。

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GKが試合中、ボールに触れる時間はせいぜい1分
残り「89分間」は、ポジショニングとコーチング、つまり守備をするための準備
これがGKの”仕事”である。
なでしこGK編(小島伸幸×小野寺志保【元なでしこJAPAN GK】対談)も収録!

小島伸幸

1966年1月17日生まれ。群馬県出身。同志社大学を経て、1988年にフジタ(現湘南ベルマーレ)へ入団。1994年に公式戦デビューを果たすと以降、安定感のある堅実なプレーを武器に正守護神としてゴールを守りつづけた。95年に日本代表初選出。1998年のフランスW杯では精神的支柱として日本代表を支えた。その後アビスパ福岡、ザスパ草津(現ザスパクサツ群馬)に移籍。ザスパ草津時代は選手兼コーチとしてチームのJFL、J2昇格に貢献した.2006年に現役引退し、現在はサッカー解説者や大学でコーチを務めている。

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著者プロフィール

1978年生まれ。栃木県出身。法政大卒業後、作家事務所を経て独立。現場目線を信条に日本サッカーを追う。サッカー批評、ジュニアサッカーを応援しよう!、J2マガジンなどに寄稿。企画・構成した書籍多数。『GKの優劣はボールに触れない「89分間」で決まる』の構成も担当した。

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