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“世界基準”のGKが行う周到な準備
小島伸幸氏が語る89分間の大切さ
CL決勝でファインセーブを連発したバイデンフェラー。世界基準のGKは失点を減らすため、常に最善の準備を行っている
CL決勝でファインセーブを連発したバイデンフェラー。世界基準のGKは失点を減らすため、常に最善の準備を行っている【Getty Images】

 今年5月にバイエルン・ミュンヘンの優勝で幕を閉じた2012−13シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)。決勝戦は両チームの守護神、マヌエル・ノイアー(バイエルン)とロマン・バイデンフェラー(ボルシア・ドルトムント)というハイレベルなGK2人が多くのファンを魅了した試合でもあった。決勝戦の決着スコアは2−1でバイエルン。しかし決定機の数で言えばもっとハイスコアになってもおかしくなかった。


「両GKの質の高いプレーの連続によって引き締まった好ゲーム。近年のCL決勝でも群を抜いて面白い試合と言えるのではないでしょうか」


 そう語るのは元日本代表のGKで、現在は指導者や解説者として活躍する小島伸幸氏だ。大舞台で素晴らしいプレーを見せながら、バイデンフェラーはドイツ代表歴を持たない。こうした層の厚さはどこからくるものなのか。また、日本人GKがさらにレベルを上げるためにはどうすればいいのか。小島氏に、“CL決勝に見る世界基準のGK”というテーマで、試合を振り返りながら話を伺った。

欧州ではGKがヒーロー

――決勝戦をご覧になってもっとも印象に残ることは?


 まずノイアーもバイデンフェラーも怖がらないということ。バイデンフェラーは(アリエン・)ロッベンのシュートを顔面でセーブするシーンがあったけれど、そういうシーンが生まれるのは蹴られる瞬間まで怖がらずにボールをしっかり見ている証拠。これは欧州のGK全般に言えることで、両手をいっぱいに広げて自分の体を大きく見せて、顔も最後まで背けない、そんな勇敢さに溢れている。これが当たり前のようでなかなかできないものです。日本ではカテゴリーが落ちるほど、シュートを打たれる瞬間に恐怖心で顔を背けたり、手で顔を防いだりしてしまう傾向が強くなります。


――彼らが怖がらない理由は?


 GKが生まれる土壌が日本や南米とは異なるのでしょう。責任感が全然違います。欧州では能力の優れている選手がまずGKになりがたる。ヒーローなんです。私が昔、ユース代表としてユーゴスラビアへ遠征に行ったとき、日本で名も知られていないGKがすごく人気でした。ユース代表とはいえ国を背負ってGKを任されていることに対するリスペクトを感じました。彼らにとってはそういうポジションであって、激しい競争の中から生き残ってトップにいる選手たちの責任感は半端ではない。それがプレーに表れていると思います。

ゼロコンマ何秒の判断の差が勝負を分ける

――では、試合映像をたどりながら話を進めたいと思います。序盤から互いにアグレッシブな攻防を見せる中、双方のGKが度々ファインセーブで見せるシーンが続きました。小島さんの印象的なシーンを一つ挙げてもらえますか


 前半33分のシーンです。左サイドでボールを持ったバイエルンが、ドルトムントのDFラインと最後方に構えるバイデンフェラーとの間のスペースにスルーパスを入れました。逆サイドでボールを受けたのはロッベン。バイデンフェラーと1対1の場面です。まず大前提としてドルトムントは全体をコンパクトにしながら激しい守備で対抗するチームなので、最終ラインをかなり高く設定しています。だからGKは常にDFラインの背後をケアできないと勝負になりません。


――当然このスルーパスに対しても、バイデンフェラーは飛び出す準備をしていますね


 そうです。ただし前への意識が強すぎると、逆に空いたゴールマウスにシュートを狙われる可能性があるから後ろのケアも必要となります。この場面のスルーパスはペナルティーエリアの外を横切っているから、まずバイデンフェラーは飛び出さないという判断をした。その次の判断として、映像を見るかぎり、ロッベンがファーストタッチするゼロコンマ何秒前というタイミングで前へスタートを切っている。つまりロッベンがボールに視線を落とした瞬間に距離を縮めているわけです。ロッベンからすれば、視線を上げたときにはバイデンフェラーが目の前にいた、という感覚でしょうね。ロッベンがファーストタッチしてからスタートしたのでは遅かったと思います。この場面は、ゼロコンマ何秒の判断の差でシュートを防げるか、失点するか、が決まったと言っていい。


――バイデンフェラーは両足を小刻みに踏み込みながら前進して、ロッベンににじり寄っていますね。相手のシュートに対して、一度沈み込んで小さくジャンプをしてタイミングを合わせる、いわゆる“プレジャンプ”をしていません


 プレジャンプは、小さくジャンプをして空中にいる間は左右に動けないので、反応が遅れてしまうことがある。この場面では、バイデンフェラーが両足を小刻みに踏み込んで、いつでも反応できる準備をしながら、ロッベンとの距離をギリギリまで詰めてシュートコースを完全にふさいだ。もう1メートルでも距離があったら、ロッベンに肩口をかすめるように狙ったり、股下を狙ったりする余裕を与えてしまったでしょう。


――シューターではなくGKが主導権を握った、とも言えそうですね


 そうですね。失点を減らすための最善の準備を事前にすべて済ませているから、それが可能になるわけです。ボールの位置と、そのときの周りの状況を確認しながら、局面が切り替わるたびに頭をフル回転させて瞬時に判断して、プレーを実行していく。練習から実戦を意識していないとなかなかできません。


――かなり頭が疲れそうですね


 試合があった日の夜は眠れないですよ。肉体はあまり疲れないけれど、頭はさえていますから。

鈴木康浩

1978年生まれ。栃木県出身。法政大卒業後、作家事務所を経て独立。現場目線を信条に日本サッカーを追う。サッカー批評、ジュニアサッカーを応援しよう!、J2マガジンなどに寄稿。企画・構成した書籍多数。『GKの優劣はボールに触れない「89分間」で決まる』の構成も担当した。

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