謎に包まれていた2ステージ制復活の意図=成長シナリオを描くために必要な決断

宇都宮徹壱

グローバル化の荒波に飲まれたJリーグ

2ステージ制に反対するサポーターは、スタジアムで横断幕を掲げて抗議した 【写真は共同】

――おっしゃることは分かりますが、選手育成は各クラブが担うべきものだと思います。その点については、いかがでしょうか?

 理想はそうかもしれませんが、地方のクラブにはJリーグからの一定の支援は必要だと考えます。この前、帯広でデベロップカップという、クラブユースの1つ下の大会があったんですけど、そこで準優勝したのがカターレ富山だったんですよ。いい指導者を連れてきて環境を整えてやると、ユースはわりと早く育つ。だからこそ、そういった支援は下げてはいけないんですよ。皆さん簡単に「いい選手を作り続けなければ」とおっしゃいますが、そのためには指導者が食べていける体制だとか、施設の改善だとか、豊富な国際経験が必要なわけです。でも、そういった投資原資を、今はなかなかクラブ単独では生み出せない。

――確かに、富山だけの力では難しいですよね。それは、他の地方クラブについても同様だと思います

 ここでいったんJリーグから離れて、グローバルな話をさせてください。2010年にヨーロピアン・クラブ・アソシエイション(ECA)の総会にオブザーバーとして参加させてもらいました。

――ECAというのはG14から発展したものですね?

 そうです。(カール=ハインツ)ルンメニゲが会長で、彼の好意で参加させてもらいました。いろんな会議で生の声を聞けて、非常に貴重な経験をさせてもらったんですけど、ちょうどその頃、FIFA(国際サッカー連盟)が「シックス・プラス・ファイブ」を模索していたんですね。つまり自国の選手を6人、先発に入れなければならないという。それくらいヨーロッパの5大リーグに世界中のトップレベルの選手が集中し過ぎていて、FIFAとしてはその状況をよしとしていなかったんです。僕自身は、このアイデアには結構期待をかけていました。これが実現すれば、Jリーグにもよりレベルが高くてバラエティに富んだ選手が集まりやすくなるから。

――確かに。5大リーグに続く、ヨーロッパのリーグの地盤沈下にも歯止めがかかるでしょうし

 でも結局、実現しなかった。そして、その年のW杯で日本がベスト16になって、これ自体はすごくうれしい事だったのですが、日本人選手も流出の対象になった。シックス・プラス・ファイブが採用されず、日本の選手はどんどん海外に出ていく。こういうサイクルになることは目に見えていた。日本のリーグをこれからどうデザインしたらいいのか、非常に悩みが深くなったんですね。

――つまりJリーグも、好むと好まざるとにかかわらず、グローバル化の荒波に直面せざるを得なかったと

 もちろん、海外に出て行って成長したい選手を止めることはできませんし、それは日本サッカーにとっていいことでもあるのです。だから選手が出て行ってしまう分、新しいタレントを作り続けるための環境作りをしていかなければならない。けれども今は、その原資が枯渇している。ここまでの20年、選手育成に関してはいい流れで来ていたのに、それを断つわけにはいかない。話の本質的な部分は、そこだと思っているんです。では、このまま選手が出て行って、その代わり育成を止めないでいい選手が出続けたとしても、一般の人の関心がどんどん減っていることに対してのソリューションにはなっていない。やっぱり露出が少ないんですよ。ならばどうするのか、という話なんです。

現状のままで成長するシナリオが組めなかった

――なるほど、ようやく問題点を整理することができました。ただ、こうした情報ってJリーグだけが抱え込むのではなく、もっとサッカーファンの間で共有すべきだと思います。いかがでしょうか?

 この国のリーグの特徴的なこととして、多くのサポーターに支えられているんですけど、成長していくために潜在的なお客さんの層がどんどんやせ細っているというのは、未来にとって決していいことはないし、むしろ由々しき事態だと思っています。また、Jリーグがスタートして20年の間に社会の経済環境や、ステークホルダーをとりまく環境も変わりました。だからそうした環境に対して、われわれも適応していかなければならないわけです。こうした背景も、引き続き発信していきたいと思っています。

――で、その解決策として出てきたのが、2ステージやポストシーズンというわけですね。このアイデアは、どこから出てきたんでしょうか?

 各クラブからも出してもらいました。ポストシーズンをやるとしたら、どういう仕組みがいいのかということを、自分たちのクラブに照らして考えてくれた方もいらっしゃいました。それに実際、ポストシーズンを採用している国もありますからね。

 先ほどのグローバリズムの話に戻りますけど、5大リーグに優秀な選手が集まり過ぎたために、ヨーロッパの中堅国、とくに育成に定評がある国々はほとんど選手が出ていってしまったんですよね。そのいい例がベルギーです。アザールをはじめ20歳そこそこのタレントは、みんな国外に出て行ってしまう。いくらアンデルレヒトが名門だといっても、これまでのような国内リーグの方式では注目が集まらない。だから上位6チームでプレーオフを行う、スプリット方式というプレーオフを導入したんです。ポーランドでも、今季からスプリット方式を始めるそうです。

――とはいえサポーターとしては、「世界標準に逆行する」ことを何より危惧しています。だからこそ、試合中に横断幕を掲げて反対したわけですよね。当然Jリーグとしても、世界に逆行するつもりはないと思うのですが

 もちろんないですね。ただ、われわれが目指しているのは、世界標準というよりは「フットボールの標準」なんだと思います。ファンが言う「世界標準」って、世界中でやっているということでなく、今は英国(プレミアリーグ)や、ドイツ(ブンデスリーガ)など5大リーグの標準のことです。ベルギーやポーランドの例で分かるように、中堅国はいろんなやり方を模索しているので、必ずしもヨーロッパの国々が同じやり方を採用しているとは限らない。

 われわれとしては、できればフットボールの良いところが出やすい仕組みを続けるべきだという考えに変わりはありません。ただ現状のまま続けていって、成長するシナリオというものが今回は組めなかった。ブンデスリーガのように、どのスタジアムも満員で、毎週ごとに話題が豊富で、その延長上で成長していけるというシナリオというものが、どうしても描けなかった。であれば一度迂回をして、今足りないものを補った上で、そういったシナリオを目指すべき、というのが多くの人の考え方だと思いますね

<後編に続く>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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