謎に包まれていた2ステージ制復活の意図=成長シナリオを描くために必要な決断

宇都宮徹壱

当初は封印されていた1ステージ制改変

本田(左)や香川ら代表で活躍する選手の海外流出とともに、Jリーグへの関心も低くなっていった 【Getty Images】

――先ほど中西さんは、変えてはいけないもの、変えてもいいもの、変えなくちゃいけないもの、ということをおっしゃいました。具体的に説明していただけますか?

 会議の1回目か2回目だったと思いますけれども、議論にするにあたって2つのテーマを封印しました。まずチーム数、そしてレギュレーション。つまり18チームが34節をホーム&アウエーで戦って、その中で一番勝ち点を取ったところがチャンピオンだと。まあ、当たり前な話ですね。

――当たり前な話ですが、そこ、非常に重要ですね。つまり2ステージありき、ポストシーズンありきではなく、まずは現状のチーム数とレギュレーションで何とかしようと議論をスタートさせたわけですね?

 そうです。最初にチーム数についてお話します。現状、J1は18チーム、J2は22チームでやっていて、入れ替えは3チームです。その結果、今までJ1を経験したクラブは28チームあるんですね。ちなみに50年の歴史を持つブンデスリーガは、1部の経験があるのは50チーム、2部を経験しているのが120を超えているそうです。いずれにせよ、リーグにはそうした新陳代謝が必要で、たとえばモンテディオ山形がJ1を3年経験する前と後ではぜんぜん違ったりするわけです。

――先日、取材で山形に行きましたが、確かにそうですね。運営組織は株式会社化しましたし、新スタジアムのうわさは地元メディアでも大きく取り上げられていました。そうした一連の動きも、J1の経験があればこそだと思います

 僕は現状どおり、J1は18チームで3チームを入れ替えて、新陳代謝を繰り返していくことでしか、新しいサッカーどころは生まれないと思います。これがもし10チームで2チーム入れ替えだったら、そういうふうにはならないですよね。J2も昇格プレーオフができて、そのうち岡山とか、徳島とか、新たにJ1に名を連ねたいクラブが昇格すると思います。そういうふうになると、また日本のサッカーの見える風景が変わってくると思うんですよね。

――個人的には16チームで3チーム入れ替えのほうが、さらに盛り上がると思うんですけど、まあそれはそれとして(笑)。では、レギュレーションについては?

 これは単純に、けが人や警告累積が出ても、その中で一番勝ち点の多いチームがチャンピオンだと。そうしたリーグ戦があるからこそ、ロースコアゆえに番狂わせが起こりやすいノックアウト方式のカップ戦も面白くなる。ですので、チーム数とレギュレーションについては、当初は戦略会議では「変えてはいけないもの」という認識だったわけです。

――つまりチーム数もレギュレーションも現状維持の状態で議論に入ったと

 はい。最初はそれで議論してきたんです。それこそ玉石混交ですけれども、140ものアイデアが出てきていて、それは会議の参加者全員が危機感を共有したからだと思うんですね。その中には確かにいいアイデアもあって、実施していこうと思うことも多々あったのですが、成長のストーリーが組み立てられるかというと、必ずしもそうではなかった。議論に議論を重ねた結果、「じゃあ、最初に封印したやつはどうなんだ」という話になった時に、新聞報道が出てしまった。

――それが3月の「2ステージ制復活」の報道ですね? その是非以前に、こういう形で断片的な報道が出てしまうのは、あまりよろしくないことだと思うのですが

 おっしゃるとおり、僕らも非常に不本意なところではありました。戦略会議といえども、最終決定機関である理事会に上げる前に、こういう形で情報が出てしまいましたから。

Jリーグ戦略会議が認識した3つの問題点

――当初、アンタッチャブルだったはずのレギュレーションに、なぜ手を付けざるを得なくなったのか。われわれが知りたいのは、まさにそこの部分なのですが

 その前提として、戦略会議が認識している現状の問題点について、お話したいと思います。大きく3つありました。1つ目は、日本代表とJリーグのサイクルがアンバランスになり、パラドックス化しているということ。2つ目は、一般の人々の視線がなかなかJリーグに向かっていかないこと。3つ目は、未来への投資原資が枯渇しつつあるということ。

 まず、この資料を見ていただきたいのですが(Jリーグへの関心度を示す資料)。Jリーグというものが、一般の人たちにどう見られているのかということをいろいろ調べているんですが、2006年の段階では46%の方々が「Jリーグに関心がある」と言っているんです。つまり競技場に行く、行かないは関係なく、2人に1人はJリーグの結果を気にしていたり、選手の動向を気にしていたりしていたと思うんですよ。ちなみに日本代表は44.8%でした。ところがこのJリーグの関心の数字が、だんだんと下がっていっているんですよね。12年は30.4%まで落ち込んでいる。これはショックでしたね。

――06年当時の日本代表は、まだまだ国内組のほうが多かったですからね。それから4年後のW杯では、日本がベスト16に進出してすごく盛り上がったじゃないですか。にもかかわらず、そんなにJリーグにいい影響を与えるには至らなかったと

 あそこから一気に海外流失が始まりましたからね。今では月曜朝の情報番組を見ても、国内リーグはほとんど結果も伝えられず、香川(真司)くん、本田(圭佑)くん、長友(佑都)くんの活躍ばかり伝えられる。そうやって彼らはブランド化されて、代表戦のチケットは売れるし、そのお金をさらに代表強化につなげることができる。協会としてはグッドサイクルだと思います。かつては代表がW杯で活躍すると、Jリーグにもリターンがあったのですが、今ではパラドックス化というか、むしろマイナスに働いているところがあるんですね。

――Jリーグへの一般の人の関心度を示すバロメーターとして、地上波での視聴率というものがあると思います。最近の数字はどんな感じでしょうか?

 なかなか2桁は難しいですね。NHKで優勝が決まる試合をやっても1桁台ですから。開幕戦と、ナビスコカップの決勝も同じくらいです。

――そんなものですか?! では、最後に2桁行ったのは、いつですかね

 サントリーチャンピオンシップの04年の試合(浦和レッズ対横浜F・マリノス)が最後でしょうね。あの時で12%と15%かな。あれはすごかった。もちろん「だからチャンピオンシップを」っていうわけではないんですが、普段スタジアムに来る人以外が(Jリーグに)関心がないと、数字って取れないですよね。

――とはいえ、そもそもJリーグというものはこの20年、ファンやサポーターによって支えられてきたわけですよね。ここに来て、普段スタジアムに来ない人たちの注目度を高めなければ、という危機感を抱くようになった一番の理由は何でしょうか

 それはJリーグの理念を実現させるためです。Jリーグが、より注目を集めることによって、われわれが地域社会となり得るようなクラブを全国に作っていきたい。でも、成功していないJリーグがそれを言っても、たぶんこの国は変わらないと思います。もう少し一般の人々の注目を集めるようなプロリーグとなって、地域社会の未来や日本の理想の未来を語っていくことが必要なのではないかと思います。だからこそ、将来のファンを増やすというのは、決してビジネスの側面だけではなくて、理念を実現するために必要なことなんだと思います。

――Jリーグが設立当初からの理念を重視しているのは理解できますが、当然ながらビジネスの面での危機感もあったわけですよね?

 Jリーグの収入なんですが、一番多い08年で130億円だったのが、12年で120億円。ピーク時から10億円くらい減っています。支出では、配分金は変えずに維持しているんですね。試合運営にかかる事業費は、レフェリーやマッチコミッショナーの派遣などの必要経費なので、ここを削るのは難しい。頑張ってコスト削減には務めているものの、絶対に必要なお金ですし、試合数も増えていますからね。ですから、その他の費用を削るしかない。

――この「その他の費用」というのは、ピーク時には20億円あったのに、今は13億5000万円ですか

 今後、さらに圧縮される可能性があります。この部分は、どういうことに使ってきたかというと、たとえばレフェリーのプロ化であったり、育成であったり、そういった将来的な投資に充ててきました。育成に関しては、U−13やU−14のリーグを立ち上げましたが、あれだけのチーム数でリーグ戦をやるのは、相当にコストがかかるんですよ。それでも投資してきたのは、10年後のためです。実際、2年前のU−17W杯でベスト8に入りましたし。でも、そういったお金も圧縮しないといけないわけです。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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