適正ウェートで見たい宮崎亮のボクシング=ライトフライ級で本領発揮となるか!?

城島充

ライトフライ時代は“リアル・ドンキーコング”

WBAミニマム級王座を統一した宮崎だが、過酷な減量で本来の姿が影を潜めた 【写真は共同】

「もうミニマムに悔いはありません」――暫定王者との統一戦に薄氷の勝利をおさめたあと、WBA世界ミニマム級王者の宮崎亮は絞り出すような声で言った。本来の階級であるライトフライから最軽量のミニマムに落としてのタイトル奪取、そして2度の防衛は、減量苦で本来の動きが出来ないまま成しとげたことを考えると、喝采の一方で複雑な印象も拭えない。ミニマムとライトフライ級リミットとの差は1.3キロ。そのわずかな差にさまざまな要因が絡むのがボクシングの魅力の一つだが、宮崎はボクサーと適正ウエートという大きなテーマにボクサー生命をかけて挑んでいるのではないか――。

「しょうもない試合をしてすみません…」。
 暫定王者で1位のヘスス・シルベストレ(メキシコ)を2−0の判定で下し、2度目の防衛に成功した宮崎は報道陣の前にそう頭を下げると、はれあがった左右のまぶたを両手で開くポーズをした。「こうせんと、なんも見えないんです」と。
 初防衛に成功した時点で陣営はすぐに階級を上げることを検討したが、暫定王者との統一戦に臨んだのは宮崎自身の決断だった。25歳の王者はそれを「僕のわがまま」と説明した。だが、結果だけを見ると、その代償は大きかった。

 ライトフライ級で日本、東洋太平洋のベルトを順調にコレクトしていったころの宮崎は“リアル・ドンキーコング”の異名がぴたりとくるほど、リングの上を弾むように動き、予測外のステップ、予測外の角度から強打を打ち込んで対戦者を圧倒していた。ただ、ライトフライでも減量が厳しく、前日計量で一発クリアできなかった経験もある宮崎にとって、ミニマムでの世界挑戦はある意味で危険な賭けだった。ポンサワン・ポームラック(タイ)と激しい殴り合いを2−1の判定で制して念願のベルトを巻いたとき、宮崎はそれまでの彼ではなかった。

 彼の奔放なボクシングの基軸になっていたのは、縦横な動きを可能にした下半身である。だが、極限まで肉体を削り落とした身体では、足の踏ん張りが効かない。それは左フック一発で試合を決めた初防衛戦、そして「男としてどうしてもやりたかった」今回の統一戦も大きくは変わらなかった。

激しい流血の中で2−0の判定勝利

 2012年10月に三田村拓也を4回TKOで一蹴した暫定王者が初回から重い拳を振るったのに対し、宮崎も柔らかいボディワークで強打をかわしながら左を上下に叩き込んだが、持ち味の縦横無尽なステップは影を潜め、拳のパワーも本来のものではない。2回に左まぶたを偶然のバッティングでカットすると、試合は壮絶な打撃戦に突入していく。宮崎は左フックから右ショートをカウンターできめるなど、随所に“らしさ”は見せたが、ガードを下げたまま前傾になってパンチを打つからか、5回にも頭が激しくぶつかってしまう。

 7回からようやく足を使い始め、試合の流れをたぐり寄せたが、10回にも偶然のバッティングで右目尻をカット。このころには激しい流血とともに、両まぶたが大きく腫れあがって完全に視界をふさいだ。シルベストレの猛攻を最後まで耐えきったのは、王者としての誇りだろうか。宮崎自身は「ボクシングという喧嘩なんで、根性だけでやった」と語った。ジャッジのスコアは114対114、115対114、115対113。2ー0と薄氷を踏む僅差の判定勝利だった。

フライ級でじっくり2階級制覇は非現実的!?

 暫定王者と逃げずに戦い、視界を失いながら最後まで戦い抜いた宮崎の闘志は、それまで彼が試されなかった打たれ強さとメンタルの強さを証明した。
 だが、繰り返して言うが、この夜も彼本来の動きはできず、肉体的に大きなダメージを負った。
「ライトフライ級に上げてベストなパフォーマンスを披露したい」とも宮崎は語ったが、そのためには、削った肉体を元に戻さなければいけない。ウエート上の数字調整とは違い、筋肉の量と動きを復元するのは容易ではない。同じようにいったんミニマムに落とし、ライトフライで2階級制覇を果たして防衛を続ける井岡ジムの同僚で親友の井岡一翔も「1年ほどしてようやくライトフライに適応できる身体になってきた」と話している。

 次戦はいきなりライトフライ級でのタイトル戦となるのだろうか。暴論に聞こえるかもしれないが、適正ウエートの問題と真正面から向き合うのであれば、一気にフライ級まで上げるのはどうか。フライ級で戦う身体をノンタイトル戦を数戦経て作りなおし、2階級制覇を狙うプランは興行面や宮崎のモチベーションも含めて非現実的すぎるだろうか。

 その真意は一つだけ。宮崎亮にしかできないボクシングを、世界戦のリングで多くのファンに見てもらいたいからである。
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著者プロフィール

関西大学文学部仏文学科卒業。産経新聞社会部で司法キャップなどを歴任、小児医療連載「失われた命」でアップジョン医学記事賞、「武蔵野のローレライ」で文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞を受賞、2001年からフリーに。主な著書に卓球界の巨星・荻村伊智朗の生涯を追った『ピンポンさん』(角川文庫)、『拳の漂流』(講談社、ミズノスポーツライター最優秀賞、咲くやこの花賞受賞)、『にいちゃんのランドセル』(講談社)など

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