錦織の復活がチームとファンに運んだもの=デビス杯ワールドグループ入れ替え戦

内田暁

“強く、かっこいい錦織圭”が躍動

日本が2年振りにデビス杯のワールドグループに復帰。復調した錦織(写真左)がチームを勢いづけた 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】

 9月13日から15日にかけて東京・有明コロシアムで行われた、国別対抗戦(デビスカップ)ワールドグループ入れ替え戦の「日本対コロンビア」。日本は最終日に、錦織圭(日清食品)と添田豪(空旅ドットコム)が連勝して通算成績を3勝2敗とし、2年ぶりとなるワールドグループ復帰を決めた。

 全米オープンの頃より柔らかなウェイブのかかった軽やかな髪が、そのまま、今大会のプレーを反映しているようだった。軽快なリズムで時速200キロを超えるサーブを次々とたたき込み、鋭いフットワークでボールの落下点に瞬時に駆け込むと、ダンスのステップを踏むかのように流麗に跳ね、自慢の右腕を鋭く振り抜く。次の瞬間、屋根を閉じた“日本テニスの聖地”有明コロシアムに心地よい快音を響かせて、ボールは相手コートを容赦なくえぐる――。

 そのような場面を、かくのごとく飛翔する姿を、錦織が出場したこの2試合を通じて何度目にしたことだろう? 約2週間前、ニューヨークの日差しの中でうなだれ、失意の色で頬を染めた敗者の姿は、もはや見る影もない。誰もが待ち望んだ“強く、かっこいい錦織圭”が、日の丸を背負い、デビスカップの舞台で躍動していた。

トップ10入りのプレッシャーからスランプに……

 大会第11シードとして8月末の全米オープンに挑んだ錦織が、初戦で世界ランク179位の無名選手に敗れた事実は、日本のみならず世界のテニスシーンにとっても大きな衝撃であった。だが真の意味でショックだったのは、その後の錦織の発言にある。

「ここ数週間、集中力が保てなかったり、活気が沸いてこない部分があった」
 試合後の会見で彼は、胸のつかえを吐き出すように、そうポツリと口にした。
「原因はいろいろあるとは思います。プレッシャーだったり、精神的な疲労だったり。ランキングのことは考えないようにしていても、そういうのも頭にはあって……」

 誰を責めるでも言い訳をするでもなく、どこか寂しそうにこぼれてくる錦織の言葉は、聞く者の胸をえぐる。その場に居合わせた者たちは皆、胸に手を当てれば思い当たることばかりだったはずだ。トップ10への性急で無責任な期待、4回戦で当たる可能性のあったロジャー・フェデラー(スイス)につき集中する質問。加えるなら、錦織にそれらを期待したのは、日本メディアやファンだけでない。米国やフランス、ドイツの記者たちも同様の質問を、この数カ月の間、錦織にぶつけ続けてきた。

「あと少しに見えるかもしれないが、僕はまだ遠いと感じている」
 全米開幕直前にフランス人記者に向かって言ったこのことばは、飾らぬ本音なのだろう。数字上の目標地点が近付けば近付くほど、その壁の厚さを皮膚感覚で悟ってきた。だからこそ、自分に先んじてトップ10入りを果たした1歳年少のマイロス・ラオニッチ(カナダ)を、錦織は「素直に、すごい」と称賛したのだ。

 全米オープン、さらにさかのぼればその2週間前の前哨戦でも初戦敗退を喫した錦織のスランプは、大部分が精神面の負担と自信の喪失に依拠したものだったろう。
「勝ちが続けば、また自信も戻ってくると思う」
 錦織は自らに言い聞かせるように、全米オープンの最後にそう口にした。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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