錦織の復活がチームとファンに運んだもの=デビス杯ワールドグループ入れ替え戦
“強く、かっこいい錦織圭”が躍動
日本が2年振りにデビス杯のワールドグループに復帰。復調した錦織(写真左)がチームを勢いづけた 【写真:北村大樹/アフロスポーツ】
全米オープンの頃より柔らかなウェイブのかかった軽やかな髪が、そのまま、今大会のプレーを反映しているようだった。軽快なリズムで時速200キロを超えるサーブを次々とたたき込み、鋭いフットワークでボールの落下点に瞬時に駆け込むと、ダンスのステップを踏むかのように流麗に跳ね、自慢の右腕を鋭く振り抜く。次の瞬間、屋根を閉じた“日本テニスの聖地”有明コロシアムに心地よい快音を響かせて、ボールは相手コートを容赦なくえぐる――。
そのような場面を、かくのごとく飛翔する姿を、錦織が出場したこの2試合を通じて何度目にしたことだろう? 約2週間前、ニューヨークの日差しの中でうなだれ、失意の色で頬を染めた敗者の姿は、もはや見る影もない。誰もが待ち望んだ“強く、かっこいい錦織圭”が、日の丸を背負い、デビスカップの舞台で躍動していた。
トップ10入りのプレッシャーからスランプに……
「ここ数週間、集中力が保てなかったり、活気が沸いてこない部分があった」
試合後の会見で彼は、胸のつかえを吐き出すように、そうポツリと口にした。
「原因はいろいろあるとは思います。プレッシャーだったり、精神的な疲労だったり。ランキングのことは考えないようにしていても、そういうのも頭にはあって……」
誰を責めるでも言い訳をするでもなく、どこか寂しそうにこぼれてくる錦織の言葉は、聞く者の胸をえぐる。その場に居合わせた者たちは皆、胸に手を当てれば思い当たることばかりだったはずだ。トップ10への性急で無責任な期待、4回戦で当たる可能性のあったロジャー・フェデラー(スイス)につき集中する質問。加えるなら、錦織にそれらを期待したのは、日本メディアやファンだけでない。米国やフランス、ドイツの記者たちも同様の質問を、この数カ月の間、錦織にぶつけ続けてきた。
「あと少しに見えるかもしれないが、僕はまだ遠いと感じている」
全米開幕直前にフランス人記者に向かって言ったこのことばは、飾らぬ本音なのだろう。数字上の目標地点が近付けば近付くほど、その壁の厚さを皮膚感覚で悟ってきた。だからこそ、自分に先んじてトップ10入りを果たした1歳年少のマイロス・ラオニッチ(カナダ)を、錦織は「素直に、すごい」と称賛したのだ。
全米オープン、さらにさかのぼればその2週間前の前哨戦でも初戦敗退を喫した錦織のスランプは、大部分が精神面の負担と自信の喪失に依拠したものだったろう。
「勝ちが続けば、また自信も戻ってくると思う」
錦織は自らに言い聞かせるように、全米オープンの最後にそう口にした。