苦境脱出へ、香川真司がつかんだきっかけ=ユナイテッドで臨む存在意義を懸けた戦い

元川悦子

自分自身に怒りをにじませる

今季、ユナイテッドではいまだ出場機会はなし。苦境に立たされているが、香川の力が必要となる時は必ずやってくるはずだ 【写真:アフロ】

 しかし、6日のグアテマラ戦は先発しながらシュート1本に終わった。新戦力の大迫勇也が1トップに入り、岡崎慎司、香川、清武弘嗣が2列目に並ぶという不慣れな攻撃陣の構成だったことも、やりにくさを増大させたのだろう。後半から本田圭佑と柿谷曜一朗のセンターラインに変わって連動性が高まり、3点を奪って勝利したが、相手のレベルを考えると決して満足できるはずがない。「シュート数が明らかに少ない。正直、ムカつく」と自分自身に怒りをにじませるしかなかった。

 その翌日にも「ユナイテッドで出場機会がないから試合勘の問題があるのでは?」と報道陣に問われていら立ちを募らせた。2010年夏のドルトムント移籍以来、香川がこれだけ公式戦から遠ざかった状態で代表に合流したのは初めて。周りからネガティブな見方をされるのもやむを得ないところはある。そんな憶測や悲観的ムードを払拭(ふっしょく)するためにも、2連戦の集大成となるガーナ戦では、見る者を納得させるパフォーマンスを示す必要があった。

「僕らが目指している3人目の動きを生かした攻撃をしたい。攻撃の枚数を増やして3枚、4枚関われれば、必ずいい形ができる。攻めに行った中で最後の3分の1のミスは仕方のないことですし、思い切ってやらない限り、何の向上にもつながらない。リスクをかける場面はかけていくべきだと思います」と、本人も積極的にチャレンジする姿勢を頭に刻み込んで、横浜国際のピッチに立った。

 ザックジャパンで長く戦ってきた本田や清武や遠藤保仁らに加え、セレッソ大阪同期入団の柿谷と組んだこと、1試合こなしてコンディションが上がったこともあり、香川は前半から悪くない動きを見せた。失点直前の前半23分には中盤から鋭い縦パスを送り、清武とGKが1対1になる決定機をおぜん立てする。これが決まっていればもっと楽に勝てたのだろうが、清武のシュートは相手守護神に阻まれる。その直後に香川が失点に絡んだのだから悔しさはひとしおだったはず。その後、自らドリブルで持ち込んでシュートを試みたり、遠藤との左ショートコーナーからゴールを狙ったが、無得点のまま45分間を終えた。

香川の力が必要になる時はやってくる

 主力不在のガーナ相手にノーゴール、しかも黒星を喫してマンチェスターに帰ることだけは絶対に許されない……。香川の中に強い危機感が走ったのは間違いない。後半開始早々の一撃には、そんな思いが強く出ていた。「2点、3点取れるチャンスがありましたし、そういうところでもっと貪欲になれるかが、もう1つの課題だと思います」と彼はあくまで自分に厳しかったが、今後の浮上に弾みをつけたのは確かだろう。

「最近、いろいろ考えすぎていた? それは分からないけど、やっぱりこういう緊張感のあるゲームをやってなかったんで……。試合をやって、自信や勢いをゴールという形で取り戻したかった。やっぱり僕はピッチで結果を残すしかないですから。今、マンチェスターで試合に出てないのは問題かもしれないけど、シーズンも始まって監督も変わったことは自分の中でもしっかり受け止めています。向こうに帰ってからチャンピオンズリーグ(CL)もありますし、この前もリーグ戦で(リバプールに)負けているんで、チャンスは絶対出てくると思う。ここからが本当の勝負だと思います」と、香川は毅然とした表情で未来を見据えていた。

 ガーナ戦の得点をモイズ監督がどう評価するかは定かではない。たかが代表の親善試合で1ゴールを挙げたくらいで状況は何一つ変わらないかもしれない。ただ、香川の状態が上向いていることだけは事実だ。ガーナ戦を見る限り、献身的に守備のサポートに入って身体能力の高い相手に応戦していたし、中盤に下がってゲームの組み立てにも意欲的に参加していた。このように幅広い仕事を見せられたのも、コンディションが上がってきているから。今回の代表2連戦でしっかりとゲームをこなしたことは、この先のユナイテッドでもきっとプラスに働くだろう。

 世界屈指のビッグクラブはここから試合が目白押しだ。14日のクリスタルパレス戦に始まり、17日にはCLのレバークーゼン戦、22日にはマンチェスター・シティとのダービーと重要なゲームが続く。今後、リーグカップやFAカップなどもあるため、どこかで香川の力が必要になる時がやってくる。そこでチャンスをつかむかどうかは本人次第だ。

 とにかくユナイテッドでピッチに立たない限り、彼自身の飛躍はありえない。9カ月後に迫ったブラジルW杯で成功するためにも、この正念場を全力で乗り切ってほしいものだ。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント